
民事・その他
生活保護
生活保護とは、生活保護法によって規定されている、生活費を給付する公的扶助制度です。
生活保護制度の目的憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」として、最低限度の生活を送ることを基本的人権のひとつに位置づけています。
これをふまえ、生活保護法はその1条で「この法律は、日本国憲法第25条 に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」と規定して、その理念と目的を明確にうたっています。
このように、生活保護制度は、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする制度です。
この制度の原則とは生活保護法には、制度を特徴づける重要な原則や原理が規定されています。
(1)無差別平等の原則(2条)
困窮の要件を満たす限り、すべての国民に差別なく平等に適用されること。生活困窮に陥った理由や過去の生活歴や職歴等が問われることはありません。この原則は、法の下の平等(憲法14条)によるものだといわれます。
(2)補足性の原則(4条)
補足性の原則とは、この制度が、あらゆる手段を使っても最低限度の生活が困難な時にそれを補足するために利用される制度であることをうたう原則です。
1)生活保護は、資産(預貯金・生命保険・不動産等)、能力(稼働能力等)や、他の法律による援助や扶助などその他あらゆるものを生活に活用しても、それでもなお最低生活の維持が不可能なときに、はじめて利用されるものです(たとえば、売却処分していない不動産があり場合は、対象になりません。)。
また、民法に定められた扶養義務者の扶養及びその他の扶養は、生活保護に優先して実施されます。
2)保護の実施中は、最低限度の生活を超える部分での自動車の保有・運転に関する制限などをされることがあり、指示に従わない場合は保護の変更、停止もしくは廃止を受けることがあります。
(3)申請保護の原則(7条)
生活保護は原則として要保護者の申請によって開始されます(要保護者本人だけでなく扶養義務者や同居の親族でも可)。ただし、急病人等、要保護状態にありながらも申請が困難な場合は、行政機関が自ら保護を決定することがあります(職権保護)。
(4)世帯単位の原則(10条)
生活保護は、あくまで世帯を単位として能力の活用等を求めて補足性の要否を判定し程度を決定する「ミーンズテスト」を経て実施されます。
生活保護の内容生活保護は次の8種類からなります。これらは、要保護者の年齢、性別、健康状態等その個人または世帯の生活状況の相違を考慮して、1つか2つ以上の組み合わせで実施されます。
(1)医療扶助 (公費負担医療)
被保護者が、けがや病気で医療を必要とするときに行われる扶助。国民健康保険や後期高齢者医療制度からは脱退することとなり、薬などは原則として現物支給により行われ、その治療内容は国民健康保険と同等とされます(34条)。
(2)生活扶助
衣食その他日常生活の需要を満たすための扶助で、飲食物費、光熱水費、移送費などが支給されます。基準生活費(第1類・第2類)と各種加算とに分けられ、第1類は個人ごとの飲食や衣服・娯楽費等の費用、第2類は世帯として消費する光熱費等とされています。
各種加算は障害者加算(重度障害者加算、重度障害者家族介護料、在宅重度障害者介護料)や母子加算、妊産婦加算、介護施設入所者加算、在宅患者加算、放射線障害者加算、児童養育加算、介護保険料加算があります。
(3)教育扶助
被保護家庭の児童が義務教育を受けるのに必要な扶助です。教育費の需要の実態に応じ、原則として金銭で支給されます。
(4)住宅扶助
被保護者が、家賃、間代、地代等を支払う必要があるときや家屋の補修、その他住宅を維持する必要があるときに行われる扶助です。原則として金銭をもって実費が支給されます(上限あり)。
(5)介護扶助
要介護又は要支援と認定された被保護者に対して介護保険とほぼ同等の給付が保障されます。原則として生活保護法指定介護機関において現物支給されます(第34条の2)。介護保険の加入者である場合はそちらが優先して適用され、介護保険の1割自己負担分が介護扶助から支出されます。
(6)出産扶助
被保護者が出産をするときに行われる給付です。原則として、金銭により給付されます。ただ、生活保護では他の法律による支給が優先するため、児童福祉法の入院助産制度を優先適用し、生活保護の出産扶助は自宅出産など指定助産施設以外での分娩の場合などしか適用されません。
(7)生業扶助
生業に必要な資金、器具や資材を購入する費用、又は技能を修得するための費用、就労のための支度費用(運転免許証)等が必要な時に行われる扶助で、原則として金銭で給付されます。高等学校就学費は、この扶助により支給されます。
(8)葬祭扶助
被保護者が葬儀を行う必要があるときに行われる給付で、原則として、金銭により給付されます。
被保護者の権利と義務被保護者は、生活保護の実施につき、以下の権利を持っています。
- 不利益変更の禁止: 正当な理由がない限り、既に決定された保護を不利益に変更されないこと(56条)。
- 公課禁止: 受給された保護金品を基準に、租税やその他の公課を課せられないこと(57条)。
- 差押禁止:既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押えられないこと(58条)。
その一方、以下の義務が課せられます。
- 譲渡禁止: 保護を受ける権利は、他人に譲り渡すことができません(59条。受給された金品で取引をしてはならないという意味ではありません。念のため。)。
- 生活上の義務:能力に応じて働き、あるいは支出の節約を図るなどして、生活の維持・向上に努めなければならないとされています(60条)。
- 届出の義務:収入や支出など、生計の状況に変動があったときや、居住地または世帯構成に変更があったときは、すみやかに実施機関等へ届け出なければなりません(61条)。
- 指示等に従う義務:保護の実施機関が、被保護者に対して生活の維持・向上その他保護の目的達成に必要な指導や指示を行った場合(27条)や、資産状況や健康状態等の調査目的で、保護の実施機関が居住場所に立ち入り調査した場合(28条)、医師検診受診義務や歯科医師検診受診義務の命令があった場合(28条)、適切な理由により救護施設等への入所を促した場合(30条1項但書)は、これらに従わなければならないとされています(62条)。
- 費用返還義務:緊急性を要するなど、本来生活費に使える資力があったにも関わらず保護を受けた場合、その金品に相当する金額の範囲内において定められた金額を返還しなければならないとされています(63条。支給されるまでに時間がかかる年金など)。
- ケースワーカーが必要と認めた場合は受給者に対して家計簿と領収書(レシート)の提出を求められます(2014年より施行)。
厚労省によれば、生活保護の受給者数は、第二次世界大戦後の混乱の中、1951年には月平均で204万6646人が受給し、その後長い間減少が続きましたが、1995年の88万2229人を境に増加に転じ、2011年3月には200万人を突破し、ついに2012年7月には212万4669人と過去最多の受給者数を記録しました。「貧困家庭が増加している」といわれる根拠の一つがここに表れているといえます。
手続面の実態にも問題が生活保護法は保護を請求する権利(保護請求権)を無差別平等主義として保障しており、保護の申請は権利として保障されています。
つまり、保護申請があれば福祉事務所は無条件に受理してすみやかに保護の要否についての審査を開始するというのが生活保護法の根本原則なのです。
そして、生活保護の申請は要式行為ではなく、保護申請に「形式上の要件」はありませんから、申請の意思表示が行われれば、たとえば口頭によるものであっても、それだけで申請行為は成立するのです。にもかかわらず、いったん申請されてしまうと多くの場合、保護を開始しなければならないことから、役所の側が違法に申請を拒否している例があるとする調査結果があります。
日本弁護士連合会によれば、福祉事務所に行ったことがあると答えた180件のうち118件で福祉事務所の対応に違法性が見られたとして、担当職員の「門前払い」の問題が指摘されました。対応する側にも、意識の変革が求められるところです。
年金
年金とは、毎年定期的・継続的に給付される金銭のことですが、制度の運営手法によって、公的年金と私的年金に分類されます。
日本の公的年金制度は、基礎年金制度である国民年金、および所得比例年金である被用者年金が存在し、国民皆年金が達成されています。どちらでも老齢給付、障害給付、遺族給付が支払われます。
一方私的年金とは、一般に民間の保険会社などが販売している個人年金保険を指します。保険料の払込期間(たとえば60歳まで)や受取年齢、受取年数などをあらかじめ加入者が決めておきます。企業の退職金の一部に選択されることがあります。
この項では、公的年金を中心に、その概要を説明し、必要に応じて私的年金にも触れて行きます。
1階部分
日本の年金制度は3階建てになっているといわれます。
原則として、20歳以上60歳未満の日本に居住するすべての国民は、国民年金(給付または受給段階では老齢基礎年金という)に義務として強制加入し最低限の保障を行うもので、資格期間が25年以上ある人が65歳になった時に1階部分として老齢基礎年金を受給できることになります。
2階部分
民間の被用者や公務員等に適用されるもので、厚生年金や共済年金に企業や組織が義務として強制加入しなければならず、自動的に加入しているとみなされる1階部分の老齢基礎年金に加えて2階部分の老齢厚生年金や退職共済年金を受給できる制度です。
3階部分
さらに、任意の選択として個人では国民年金基金や確定拠出年金に、企業では従業員のために各種の企業年金に任意に加入して掛金を拠出し、老後に給付することができる私的年金があります。さらに勤務先に関係なく、全くの個人の選択として個人年金とされる年金保険などもあります。
国民年金国民年金は、上述のように年金全体の中で「1階部分」を担い、最低限度の保障となります。現在の国民年金は拠出制年金であり、同法改正により1961年4月から保険料の徴収が開始され、国民皆年金制度が確立され、その後、1985年の年金制度改正により、基礎年金制度が導入されて、現在の年金制度の骨格ができました。
「国民年金」は、実際には給付の原因によって、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金、寡婦年金、死亡一時金に分かれています。
受給資格として日本国籍は要件ではないため、日本国籍を持たない人(日本に定住している在日外国人)も、所定の要件に該当すれば保険料を納めなければなりません。また外国国籍のみを対象とする給付(脱退一時金)もあります。
国民年金は、すべての国民を対象に、「老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与すること」を目的としています(国民年金法1条)。
この目的を達成するために、国民の老齢・障害・死亡(障害・死亡については、その原因が業務上であるか業務外であるかを問わない)に関して必要な給付を行っています。
- 老齢基礎年金
一般的に「基礎年金」と呼ばれています。年金額は満額の場合780,900円×改定率(マクロ経済スライドによる本来の年金額)ですが、保険料納付期間等に応じて減額されます。 - 障害基礎年金
被保険者期間中の病気やけが等が原因で障害を有することとなった場合に支給されるのが障害基礎年金です。年金額は、2級で老齢基礎年金の満額と同額、1級は2級の1.25倍になります。扶養する18歳以下の子や障害の状態にある20歳未満の子がある場合は加算が適用されます。 - 遺族基礎年金
被保険者が死亡した場合、所定の要件を満たしていれば死亡した者に生計を維持されていた遺族に支給されるのが遺族基礎年金です。年金額は老齢基礎年金の満額に、子の数により加算します。 - 付加年金
第1号被保険者としての保険料全額納付時に月400円をプラスして納付すれば、老齢基礎年金の受給権を取得したときに年間96,000円以内の範囲で老齢基礎年金に付加されて年金額が増えます。 - 寡婦年金
夫が老齢基礎年金又は障害基礎年金を受けないで死亡した場合に、条件を満たせば妻が一定の期間に受給できる年金です。 - 死亡一時金
③の支給を受けることのできる遺族がいない場合に、生計を同じくしていた遺族に対し、生計維持関係まで問われることなく、保険料納付月数により一定額が支給されます。 - 脱退一時金
保険料を6月以上納付していて日本国籍を有していない人(被保険者でない者に限る)が老齢基礎年金の受給資格期間を充たさないまま出国した場合に、資格喪失日から2年以内に請求すれば支給される一時金です。
被用者年金は、日本の公的年金制度のうち、民間企業や官公庁などに雇用されている人が加入する年金制度のことをいいます。
被用者年金には、厚生年金、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、農林漁業団体職員共済組合、船員保険、私立学校教職員共済などがあり、基礎年金に上乗せする形で、2階部分の「報酬比例の年金」が支給され、共済ではさらに3階部分の「職域加算額」が加算されます。
適用される事業所別にみると、被用者年金は強制適用事業所と、任意適用事業所に分かれます。強制適用事業所は、健康保険の強制適用事業所と共通ですが、厚生年金ではさらに、「船員法1条に規定する船員として船舶所有者に使用される者が乗り組む船舶」も強制適用事業所とされます。
被用者年金一元化年金財政の範囲を拡大して制度の安定性を高めるとともに、民間企業の被用者も公務員、また私学教職員も、同じ保険料を負担し、同じ年金給付を受けるという年金制度の公平性を確保し、公的年金に対する国民の信頼を高めるため、これまでバラバラであった被用者年金が一元化されました。
一元化には2つの意味があり、1つは「財政単位の一元化」、もう1つは「情報の一元化」です。前者は報酬比例部分の財政単位を一元化して制度設計し、給付と負担を調整することで、後者は被保険者情報と受給者情報を一元化し、職業や住所を変えるという異動があったときに一元化された情報をもとに確認する仕組みを指します。
2007年4月、共済年金の1・2階部分の保険料率を厚生年金の保険料率(18.3%上限)に統一し、給付を厚生年金制度に合わせることを趣旨とする「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律案」が提出・可決され、2015年10月より施行されました。
さらに2007年4月、一元化法案の中に、パートタイム労働者の厚生年金(社会保険)の適用の拡大が盛り込まれ、「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」として成立し、2016年10月に施行されました。
この話題は、よく取り上げられる問題です。「破たん」には、様々な定義があり得ます。仮に、老後を送るのに十分な支給がされない状態を「破たん」と呼ぶことにするとして、厚労省の様々なシミュレーションによれば、2055年には積立金が底をついてしまい、保険料と国庫負担で賄える給付水準は、所得代替率35~37%になってしまう、というのが最悪のシナリオです(所得代替率=これまでの給与などの所得に対する給付の割合)。
仮に現役時代の手取り月収が35万円とすれば、その37%では月々の給付額が13万円を下回ることになり、とても夫婦二人では暮らせる金額にはなりません。たしかに破たんと呼ぶべき状態です。
ただ、この最悪のシナリオは現実的でないという意見もあり、その意見によると、そこまで深刻な事態は訪れないだろうという見方になりますし、逆にもっと破たんは早まるのではないか、という見方もあって、決着をみていないのが実状です。しかし、確実なのは、今よりもよくなるという見方はないということです。
自らの老後を守るために、年金だけをあてにしない生活設計を今から考えて実行するのが得策でしょう。
自然災害
豪雨、洪水、地震、津波、噴火……。自然の猛威を前にして、我々はときに為すすべがありません。しかしだからといって、そのまま我々は何もしないわけにはいきません。少しでも被害を食い止め、最小限に抑え、本来の生活を取り戻すための取り組みを行うのです。
ここでは、自然災害に対するそのような我々の取り組みを、法的な側面から見て行きます。
被災者生活再建支援法において「自然災害」は「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象により生ずる被害」と定義されています(2条1号)。
一方、「災害は、危機が脆弱性と出会うことで起こる」という言葉があります。社会のもつ脆弱性(災害に対する弱さ)は、防災計画がなかったり適切な危機管理がなされなかったりすることで、人的被害、経済的被害、環境に対する被害をさらに大きくすることを意味しています。
最終的な被害の大きさは、被害者を支援し災害拡大を抑えるための人員の数や、災害からの回復力の大きさに依存するというわけです。
また自然現象は、それ自体が脅威となりながら、なお人間社会や環境に対して否定的な影響をもつ現象をもたらします。たとえば地震は津波を起こし、干ばつは飢餓や疾病を起こします。
2011年3月11日に起こった「東北地方太平洋沖地震」はそれ自体「自然現象」ですが、その結果引き起こされ、数年にわたり大規模な人的被害や経済的被害などが続いた「東日本大震災」は「自然災害」だといえます。
災害に関する法制度は、そのような自然「現象」が自然「災害」になってしまう際の、まさにその災害を最小限に食い止めるための、国・社会全体の試み、といえるでしょう。
災害時の事象災害に関する法制度が、対象としている事象にはどのようなものが想定されるているでしょうか。多くの災害時に発生する事象をここで確認しておきます。
多くは、インフラストラクチャー・ライフラインの寸断・故障、物理的に建物や施設、道路、河川などが破壊されることにより寸断されるほか、制御系統の不具合や停電による停止などが起こります。
- 電力供給の停止(停電)や制限
- 都市ガス供給の停止や制限や制限
- 上水道、農業用水路、工業用水道などの用水の停止(断水)
- 下水道などの排水の停止や制限
- 電話や通信網の停止や制限:災害時には安否確認や災害対処により通信量が急激に増加する。
- 放送の停止や制限:災害時には被災者に対する情報提供のため必要性が増す。大規模災害時にはFMラジオによる臨時災害放送局が開設される場合がある。
- 公共交通機関(鉄道・軌道、航空機、バス、タクシー、船舶)の停止や制限
- 道路の寸断や制限による運輸や郵便、私的交通の停止や制限:災害時には緊急車両優先や混雑防止などのため交通規制が行われる場合がある。
- 交通の支障や燃料不足、原材料・製品供給の途絶などによる物流の停止や制限
- 食料品・飲料・日用品の不足:実需要の増加、災害心理や流言による買いだめ、物流の支障などにより品薄・品切れとなる場合がある。
- 病院や薬局などの医療機関の停止や制限:災害時には救急医療の割合が急激に増加し災害医療体制となり、重要性が高まる。
- 直接被災やサプライチェーン寸断による企業活動の停止や制限:被災により損失を受ける企業がある一方、復旧需要により利益を受ける企業もある。また金融や経済、雇用への影響(被災による退職、企業経営悪化による経営破綻、失業)が生じる一方、復旧需要に伴う雇用も生じる。大規模災害時には産業構造が大きく変化する場合がある。
- その他の商品・サービス、公共サービスへの影響
- 住居被災や避難による居住への影響―住居被災者に対しては補助金、公営住宅や仮設住宅の提供が国・自治体から行われる
災害法制度は、以上のような事象や、場合によっては行政機関が自ら決める緊急の政策について、自然災害からもたらされる悪影響を最小限に抑えるための、効果的で効率的な政策実行を進めるために体系化され、運用されています。
防災に関する法律の体系国土交通省によれば、防災に関する諸法律は、上記の事象を想定して、体系づけられ、運用されています。以下にその全体像を記します。
1. 基本法:災害対策基本法
国、地方公共団体等の防災体制、防災計画、災害予防・応急対策・復旧等の災害対策の基本を定めています。
2. 個別法
2-1. 災害予防:災害対策基本法34条等に定める「防災基本計画」中の「 災害予防」における、想定災害の適切な設定、災害に強い国づくり・まちづくり、国民の防災活動の促進、災害に関する研究や観測の推進、迅速な応急対策、復旧・復興の備え等を目的に、以下の法律が位置づけられています。
地震関係
- 大規模地震対策特別措置法:地震防災対策強化地域の指定、地震観測体制の整備等
- 建築基準法:住宅の耐震基準の設定等
火山関係
- 活動火山対策特別措置法:火山地域における避難施設等の整備、降灰除去事業の実施の促進等
風水害関係
- 河川法:洪水等の発生防止のための河川の総合管理等
土砂災害関係
- 砂防法、森林法、地すべり等防止法:災害防除のための国土保全対策の推進等
2-2. 災害応急対応:災害対策基本法34条等に定める「防災基本計画」中の「災害応急対策」において、情報収集、連絡及び活動体制の確立、救助・救急、医療及び消火活動、緊急輸送の交通の確保・緊急輸送活動、避難収容及び情報提供活動、物資の調達、供給活動、二次災害、複合災害の防止活動、自発的支援の受入等を目的に、以下の法律が位置づけられています。
- 災害救助法:被災者の救助の実施体制、救助の種類、程度、方法、期間を定めるとともに、費用についての国庫と都道府県との分担関係を定めています。
- 消防法、水防法:災害発生に組織的に対応するために必要な対策等
※その他、自衛隊法、警察法等の組織法において災害対応体制を整備
2-3. 災害復旧・復興:災害対策基本法34条等に定める「防災基本計画」中の「災害復旧・復興」において、地域の復旧・復興の基本方向の決定、迅速な現状復旧の進め方、計画的復興の進め方、被災者等の生活再建等の支援等を目的に、以下の法律が位置づけられています。
被災者への救済援助関係
- 被災者生活再建支援法:生活再建支援金の支給等
- 災害弔慰金の支給等の関する法律:災害弔慰金、災害障害見舞金等の支給等
- 中小企業金融公庫法、農林漁業金融公庫法:中小企業者、農林漁業者への援助等
災害復旧・復興関係
- 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法、農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律:災害復旧事業に要する費用に対する国の補助等
- 激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律:国民経済に著しい影響を及ぼす災害に対する地方財政の負担緩和等
保険共済関係
- 地震保険に関する法律、農業災害補償法等:損害保険、農林水産業関係災害補償制度等
以上が、災害に関わる法制度の全体像です。
ではこれで態勢は万全かといえば、もちろん万全などということはあり得ません。過去の災害体験の綿密な分析と将来の正確な予測、そしてそれに応じた対策立案を不断に続けていくことが、あるべき防災の姿であり、責務といえます。
NHK(日本放送協会)
日本放送協会(NHK)は、日本の公共放送を担う事業者で、放送法という法律に基づいて設立された放送事業を行う特殊法人です。
その設立目的は、同法により「公共の福祉のために、あまねく日本全国で受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うこと」(15条)とされています。
また、NHKは特定地上基幹放送事業者かつ衛星基幹放送事業者であり、国内放送および内外放送の放送番組の編集にあたっては、公安および善良な風俗を害しないこと、政治的に公平であること、報道は事実を曲げないですること、意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすることが求められています(4条)。
ただこの規制自体は、NHKのみに課せられたものではなく、放送事業者全体に宛てて定められています。
ここでは、NHKを特徴づけるいくつかのテーマを追って行きましょう。
NHKは、自ら「公共放送」と名乗っています。このことは、国家が直接運営する国営放送とも、広告(コマーシャルメッセージ)を主な収入源とする民間放送とも異なる性格を持っていることを意味しています。では公共放送とは何でしょうか。
広告をとらないという意味では、NHKが民間放送と違うことは明らかです。しかし事業予算・経営委員任命には国会の総務委員会や本会議での承認が必要であるなど、経営・番組編集方針には国会(≒与党)の意向が間接的に反映される形となっており、その意味では国営放送との違いがわかりにくいといえます。
しかも総務大臣はNHKに対して国際放送の実施、放送に関する研究を命じることができ、その費用は国(日本国政府)が負担することになっているのです。
結局、国家予算に100%頼っているか、受信料から収入の大部分を得ているか、という違いが、最も明確な違いといえるようです。
海外の公共放送とされるものの具体例には、受信料のみで賄われているもの:デンマークのTV 2、スウェーデンのSVT、ノルウェーのNRK、フィンランドのYLE(政府所有の株式会社制)、受信料+政府負担で賄われているもの:日本のNHK、イギリスのBBC、受信料+広告料で賄われているもの:韓国のKBS(受信料は電気料金に含まれており、未払い問題は発生していない)、ドイツのARD、ZDF、フランスの France 2,France 3,France 4,France 5(それぞれが政府全額出資の株式会社制)などがあります。
NHKが公表する説明資料によれば、事業収入の96%を受信料で賄っているとされます。
ここでは、NHKが、放送法等により義務付けられている、民間放送とは違う特殊な面をみてみましょう。
受信料制度
放送法64条では、受信者は受信料を支払うことが定められていいます。NHKは法に定める要件を満たしたテレビジョン受信設備の設置者から、受信契約に基づく受信料を徴収することによって運営されているというわけです。またフランス・アメリカ合衆国・韓国・ドイツなどの公共放送では広告収入は認められていますが、NHKが広告を行って収入を得ることは放送法で禁止されています(83条)。これは世界の中でもユニークな面といわれます。
法人税の免除
また、NHKは法人税法上の公共法人とされているため、法人税の納税義務が免除されています。ただし地方税法上では非課税とされていないため、法人の道府県民税(都民税)・市町村民税については、従業員数等に基づく地方税を納付しています。
経営計画
NHKの事業は、すべて中期計画である経営計画に基づいて行われます。経営計画では、ネットワーク・編成・人事・収支(財務)その他NHKの経営・事業活動一切について、概ね3年ないし5年の単位での目標とすべき事柄が定められます。
経営計画の意思決定は以下のようにして決められます。
- 執行部が素案を作成し、経営委員会、与党の意見を仰ぐ。
- NHKオンラインなどで公表し、視聴者からの意見を募集。
- 各方面からの意見を集約して修正を加え、執行部が最終案を経営委員会に提出。
- 経営委員会が承認した場合に限り、最終案が確定。中期経営計画についてはここで最終決定。
- 上記最終案を総務大臣に提出。総務大臣は差し戻しとしない場合に意見を付けて衆議院に提出。
※これ以降、通常の予算審議などと同様に各院野の総務委員会、本会議で審議・承認されていきます。
このような手順で経営計画が決められていくのです。
宣伝・広告の禁止先にも述べたように、放送法83条によりNHKは広告放送の禁止が規定されています。したがって、放送の際には商品名や商標、企業名などが放送に載らないよう、別の言葉での置き換えなどが行われ、宣伝・広告と受け取られないよう心がけています。
また、やむをえない場合でも商品名や商標などの連呼、ロゴマークの大映しや長映しなどが行われないよう、「NHK放送ガイドライン」にも明記されており、ときには滑稽とも思われることが行われてきました。
・ スポーツの、いわゆる冠大会では、広く定着していて、その名称を使わないと分かりにくい冠大会の場合を除き、可能な限り企業名などが入らない名称に言いかえています(例:Jリーグルヴァンカップ→Jリーグカップ)。
・企業名や広告が入った看板や選手のユニフォーム、バス・電車などのラッピング広告、インターネットのウェブサイトのバナー広告などは極力画面に入らないよう注意し、必要以上にアップで撮ることは避ける配慮がされます。
・また過去には、商標などが入っている理由で、音楽番組で歌の歌詞が改変されることがありました(例:山口百恵『プレイバックPart2』中の「真紅なポルシェ」が「真紅なクルマ」に修正)。しかし2000年代に入ってからは緩和される傾向にあるといわれます。
経営委員会は放送法に基づき経営方針などの重要な事項を決議する最高機関として設けられており、両議院の同意を得て内閣総理大臣から任命された12人の委員(内1人以上は常勤、他は非常勤)で構成されます(30条)。
委員の任期は3年で、委員長は委員の互選により選出されます。経営委員会の主な職務は、協会の経営に関する基本方針等の議決と役員の職務の執行の監督です。
近時、この経営委員への任命を巡って政府の介入などが問題になったりしています。
NHKは、もともと予算や人事をはじめとして国会承認事項があり、国会の総務委員会や予算委員会等で、国会議員から質問されることもあることから、政治が国会を通してNHKに影響を与え得る構造がある(BBCにはない)ことから、政治との関わりが否定的に取り上げられることがあります。
イギリスの日刊紙「タイムズ」は2014年10月17日付の記事において、NHKは編集の独立性を放棄していると批判的に報じました。同紙が入手した内部文書によると、NHKの英語版担当記者らは最も論争の対象となっているいくつかのテーマを報道するに際して、安倍晋三政権の政治的立場を反映したフレーズを用いるよう指導されており、また南京事件・従軍慰安婦・中国との領土問題への言及を禁止されているというものです。
また、原発問題について、出演予定の学者の原稿の変更を求め、結局本人が出演を取りやめる事態となるなど、NHKがその報道の影響を過剰に反応し委縮していると指摘される事例が度々起きています。
受信料制度と未払い問題受信料は、視聴者が視聴するかしないかを問わずに一方的に料金を先払いで徴収できることが放送法で定められています(64条)。そのことから、賛否様々な意見が出されてきました。
2014年9月5日-最高裁判所の第二小法廷にて、NHK側は受信料の請求債権が10年であるという主張をしました。しかし裁判所はNHK側の上告を退け、「5年で時効」とする判決を下しました。この5年時効の判決は、最高裁判所としては初の判断だといわれます。
この最高裁判決により、5年よりも前に遡った受信料は回収困難となり、未払い受信料のうち最大678億円が回収不能になる見込みとのことです。
ワンセグ機能付きの携帯電話については、或る市議がワンセグ機能付きの携帯電話を所持しているだけでNHKの放送受信料を支払う必要があるかどうかの確認を求める裁判を起こし、2016年8月26日さいたま地裁は、放送法2条14号で「設置」と「携帯」が分けられていることから「携帯」は放送法の定める「設置」ではなく、携帯電話のワンセグは「設置」とするNHKの主張を「文理解釈上、相当の無理がある」として受信料を払う必要はないとする判決を下しました。
選挙
選挙は、現代の民主主義を根幹で支える、最も重要な制度です。この項では、日本の選挙制度についてその概要を解説します。
選挙とは、端的に定義するなら、首長や議員、団体の代表者や役員を選び出すことをいいます。以下に、選挙制度の重要な原理を掲げます。
現代の日本では、普通選挙が実施されています。普通選挙とは、狭義には財力(納税額の多寡や財産の有無)を選挙人の要件としない選挙制をいい、広義には財力・人種・信条・性別などを選挙人の要件とせず、一定年齢に達したすべての国民に選挙権を与える選挙制度を指すといわれます。普通選挙は、憲法15条3項及び44条但書で保障されています。
平等選挙・不平等選挙選挙人の選挙権を平等に扱う選挙制度の重要な原則で、一人一票(数的平等)で一票の価値が平等(価値的平等)なものです。憲法15条1項及び44条但書で保障されています。
これに対し不平等選挙とは、数的あるいは価値的に格差のある選挙のことをいいます。
直接選挙とは、選挙人が代表者を直接選ぶ選挙制度をいい、間接選挙とは、選挙人が選挙人(中間選挙人)を選びその中間選挙人が投票を行う選挙制度です。間接選挙は、フランスやオーストリアなどの上院選挙やアメリカ大統領選挙で採用されていますが、日本では採用されていません。
日本国憲法には直接選挙制について定めた明文の規定はありませんが、学説としては憲法43条の「選挙」には間接選挙が含まれると解する学説(参議院議員通常選挙においては衆議院議員総選挙とは異なり独自の間接選挙制の採用も許容される)と同条1項の「選挙された議員」の文言を根拠として直接選挙が保障されているとみる説(参議院議員通常選挙においても直接選挙によらねばならない)の両方が存在します。
しかし実際には国内に間接選挙のシステムが採用されているものはありません。
秘密選挙とは、選挙人の投票内容の秘密が保障されている選挙制度で、日本では憲法15条4項前段で保障されており、また公職選挙法46条(無記名投票制)や52条(投票の秘密保持)、68条(他事項記載投票の無効)などもこの原則に基づいて規定されています。
公開選挙とは、署名などで投票内容が分かるもののことをいいます。公開選挙では、誰が誰に投票したかわかってしまうため、特に社会的弱者が自由に意思表明することが困難となるおそれがあります。日本では採用されていません。
強制選挙とは、棄権に対して制裁を伴う選挙制度。有権者が必ず投票しなければならない義務投票によるものをいい、自由選挙とは、投票したい者だけが自由に投票することを選択できる選挙制度をいいます。日本で採用されているのは、後者です。
国政選挙の方法:衆議院選挙日本の国政において、議会は衆議院と参議院の2つがあり、それぞれルールにのっとって選挙が実施されています。
通常の衆議院の選挙(補欠選挙などを含まないもの)は、「総選挙」とも呼ばれますが、これは法律上の名称ではありません。
- 総選挙の機会
任期満了(4年)によるものと解散によるものとがあります。いずれも全議員がリセットされます。 - 年齢 選挙権と被選挙権
選挙権の年齢は18歳以上で、被選挙権は25歳以上とされています。 - 選挙区
小選挙区と比例代表の並立制が採用されています。小選挙区では、当選者はいずれも1名です。前者の定員は295、後者は180です。 - 最高裁判所裁判官国民審査
総選挙に併せて、最高裁判所の裁判官について、国民審査が行われます。
もうひとつの国会=参議院の選挙は、いくつかの点で衆議院とは異なる特色を有しています。
- 通常選挙の機会
参議院議員の任期は6年と定められており、従来より定員の半分ずつが改選される方式を採用しています。衆議院と違って解散されることがないため、参議院選挙は必ず3年に一度実施されることになります。 - 年齢 選挙権と被選挙権
選挙権の年齢は18歳以上で、被選挙権は30歳以上とされています。 - 選挙区
都道府県を単位とした選挙区制(大選挙区制)と全国単位の比例代表制の並立制が採用されています。大選挙区制では、1つの選挙区から1名~6名の当選者が選出されます。前者の定員は146、後者は96です。2016年の参議院選挙から、いわゆる「一票の格差」を是正するため、人口の少ない鳥取県と島根県、徳島県と高知県は、それぞれ2県で1つの選挙区とする合同選挙区の制度がスタートしました。
なぜ、選挙権年齢(18歳)と被選挙権年齢(衆議院は25歳、参議院は30歳)が違うのでしょうか。さらに、なぜ参議院では衆議院の25歳より5歳も下限を上げているのでしょうか。国政の選挙を所管する総務省のWebサイトを見ても、この疑問に直接答えるものは見当たりません。
まず最初に、選挙権年齢と被選挙権年齢の差の意味を確認してみましょう。
このことについては、被選挙権を選挙権によって認められた選挙に参加する権利の一環である「立候補の自由」であるとする見解がある一方で、選挙を通じて当該公職にふさわしい人物を選び出すのが選挙の目的であるとして、被選挙権を権利そのものではなくて「権利能力」(選挙で選ばれた場合に公職に就くことを許される資格のようなもの)と捉える見解があります。
後者の説に立てば、選挙権と異なる要件を付される場合を肯定することとなり、その場合には選挙権よりも要件が狭くとらえられることとなるため、両者の年齢に格差を設けていることを後押ししていると思われます。
実際に各国で採用されている年齢の比較を見てみましょう。1つ目が選挙年齢、2つ目が下院(衆議院)の被選挙権年齢、3つ目が上院(参議院)の被選挙権年齢です。
- 日本:18,25,30
- フランス:18,18,24
- イギリス:18,18,21(オーストリアも同様)
- アメリカ:18,25,30
- ドイツ:18,18,18(スウェーデン、スペインも同様)
- イタリア:18、25,40
- 韓国:19,25,25
これはあくまでサンプルにすぎませんが、選挙権年齢と下院(参議院)の被選挙権年齢とを同じ年齢にしつつ、上院でのみ年齢を違わせているのが多数派のようです。ドイツ、スウェーデン、スペインではすべてが18歳でした。
どれが正しいというのはないとしても、選挙権年齢と被選挙権年齢とに格差を設けている国と同じくしている国とでは、よってたつ考え方が異なるといえそうです。
もっとも、日本においても、両者の年齢について何歳分か程度格差を付けることに、いったいどれほどの意味があるのか、と疑問を持つ意見があるのも事実です。
では被選挙権年齢のうち、下院(衆議院)と上院(参議院)とで異なる年齢を設けている意図は何でしょうか。
日本では古くから「参議院は良識の府である」とする考えが支持を得てきました。良識を持つことと年齢を重ねることとの関連性を肯定してきたといえます(ただし参議院が新設された当時の議論では「良識の府」などという議論はなかったとされます。)。
海外では両院の違いがどう認識されているのでしょうか。
一般に下院の議員には「国民の代表」という性格があり、その選出は人口に比例して行われるのに対し、上院の議員には「地域の代表」、「州の代表」、「連邦の各構成単位の代表」、また貴族制度のある国では「階級の代表」などといった性格があり、この違いが年齢の差を設けることに結び付いている可能性があります。
現代社会で、両院の役割の違いが、実態としては必ずしも明確でなくなってきた全体状況の中で、結論を急がずに闊達な議論が交わされるのが期待されます。
皇室
皇室は、天皇および皇族の総称です。天皇を中心にその配偶者である皇后、先代の天皇の未亡人である皇太后、先々代の天皇の未亡人である太皇太后、また皇太子をはじめとした男性皇族である親王、王、さらには生まれながらの女性皇族である内親王、女王があります。親王妃と王妃は親王、王の配偶者となることにより皇族になります。
ここでは、天皇と皇室の位置付けや役割などについて解説していきます。
天皇の存在の意義は、憲法に定められています。「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」(1条)(仮名遣いママ)
この「象徴」という言葉は、大変理解しづらい語です。いったいどういう意味付けがされて使われたのか、諸説ありますが、単純な事実関係としては、白州次郎らの回顧によればGHQの憲法草案で「symbol」という語が用いられていたことから、直訳された結果のことであった、とのことです。
帝国憲法で統帥権までをも有していた絶対的な位置付けとは全く違う存在であることを強調するため、つまり戦前の権限を一度ご破算にし、事実上政治的な権力を持たない存在にしてしまう意図がアメリカ側にあったことは間違いないでしょう(これについては、近世、近代、帝国憲法下を通して実権を持って自ら政治を統帥していたことは、そもそもなかったのだとする見方もあります。)。
いずれにしろ、天皇及び皇室は、政治的な実権を持たない存在として憲法において位置づけられ(4条)、今に至っています。
天皇及び皇室は、国事行為を行うものとして規定されています(憲法7条等)。国事行為は具体的には以下の行為を指します。
- 内閣総理大臣を任命すること(憲法6条1項)
- 最高裁判所長官を任命すること(6条2項)
- 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること(7条1号)
- 国会を召集すること(7条2号)
- 衆議院の解散(7条3号)
- 国会議員の総選挙の施行を公示すること(7条4号)
- 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること(7条5号)
- 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権(恩赦)を認証すること(7条6号)
- 栄典を授与すること(7条7号)
- 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること(7条8号)
- 外国の大使及び公使を接受すること(7条9号)
- 儀式を行うこと(7条10号)
- 国事行為の委任(4条2項)
これらの国事行為を指して、決して政治的実権をはく奪などされていないと唱える説もありますが、いずれも形式的な、または儀式的な行事行為に過ぎず、政治的権限が与えられているわけではない、という説が有力です。
内閣の助言と承認の法的性質国事行為は内閣の助言と承認に基づかなければならず、内閣が国事行為の責任を負います(憲法3条)。国事行為について天皇が国政に関する権能を有しないとすると、「内閣の助言と承認」は国事行為との関係でどんな意味を持つのでしょうか。
具体的には、「内閣の助言と承認」に従うというのは国事行為の実質的決定権の所在が内閣にある(場合も含む)と理解するのか、「内閣の助言と承認」自体も形式的なものなのかが、問題となります。
このような問題が生じるのは、国事行為の中にはその実質的決定権の所在について憲法上明文がないもの(国会の召集、衆議院の解散など)があったり、内閣以外に実質的決定権があったりする(内閣総理大臣の指名、国務大臣の任免)にも関わらず、条文上は内閣の助言と承認に従うことになっているためです。
(1)本来的形式説
天皇の国事行為は本来的に形式的・儀礼的・名目的なもので、内閣の助言と承認についても実質的決定権を含むものではない。内閣総理大臣の任命の実質的決定権については国会にあり(憲法67条)、このことからみても、そもそも内閣の助言と承認には実質的決定権を含むものではない(実質的決定権の所在とは切り離されているものである)とする説。
この説の弱点は、国会の召集や衆議院の解散などについて、実質的決定権がどこにあるのかを説明できなければならないことといえます。
(2)結果的形式説
天皇の国事行為は本来的には必ずしも形式的・儀礼的・名目的なものではないが、内閣の助言と承認には実質的決定権が含まれており、内閣の助言と承認に基づいて行われることから、結果的に天皇の国事行為は形式的・儀礼的なものとなるのだ、とする説。
国事行為が本来的に形式的・名目的な行為であるなら、これに対して内閣の助言や承認を必要とすることは無意味であり、また、本来的形式説のように考えるのであれば4条と3条の規定は順序が逆になるはず(国事行為の性質が決まった上で内閣の助言と承認を要するという順序になっているはず)であるというのが根拠です。
このような象徴としての天皇と皇室の存在にについて国民の意識は変わって来たのでしょうか。変わっていないのでしょうか。
日本国憲法公布・施行前の1946年5月27日の毎日新聞朝刊に結果が載った世論調査では、象徴天皇制への支持が85%だったとのことです。
その後、メディア各社が行った世論調査の推移を見ると、1990年では「今の象徴天皇のままでよい」を回答に選んだ人の割合は73%であり、さらに10年後の2000年には象徴天皇を支持したのが8割、2002年には「(天皇は)今と同じ象徴でよい」を回答に選んだ人が86%だったとされます。
さらにNHKが2009年10月30日から11月1日に行った世論調査では、「天皇は現在と同じく象徴でよい」が82%、「天皇制は廃止する」が8%、「天皇に政治的権限を与える」が6%となっています。
数字の上では、結論は「国民の意識は変わっていない」というのが正しい理解と思われます。
2016年8月8日、天皇は、ビデオメッセージを公表し「象徴としてのお務めについて」と題して、生前退位についてお言葉を述べられ、「既に八十を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています。」と率直に懸念を表明されました。
安倍総理はこれを受け、「重く受け止める」とコメントし、政府は、経団連の今井敬名誉会長を長とする「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を発足させ、会議では象徴としての天皇のあり方や、生前退位の制度を創設する具体的な方法が議論されはじめました。
会議はまた、憲法や皇室の専門家を招いて意見を聴取することを決めました。政府は有識者会議の議論を踏まえ、生前退位に関する方針を決定して、早ければ関連法案を2017年の通常国会に提出して成立を目指す意志を示しています。
この問題は、あくまで象徴天皇制の枠の中の天皇及び皇室の役割と「定年」の問題に過ぎないともとらえられますが、一方、憲法と絡んだ重大事と理解する立場もあり、予断を許しません。
行政機関
行政機関とは、行政権の行使にたずさわる、国や地方公共団体の機関をいい、いわゆる三権のうちの立法機関(立法府)、司法機関(裁判所)と対比して位置付けられます。行政機関の総体をまとめて行政組織または行政機構ともいいます。
憲法は、「第5章 内閣」として、65条~75条において行政機関について規定し、65条では「行政権は、内閣に属する。」と定めています。
行政機関には、法律により、一定の権限と責任が割り当てられ、行政機関が、その割り当てられた範囲内で行った行為は、すべてその帰属する行政主体のためのものとされます。行政機関は、その機能から次の6種に分類されます。
(1)行政庁
行政主体の法律上の意思を決定し、外部に表示する権限を持つ機関。公権力の行使の場面で用いられます。特に国の行政庁(すなわち官庁である行政庁)を行政官庁といいます。
- 独任制:国における内閣総理大臣、各省大臣、各庁長官、検察官など、地方公共団体における都道府県知事、市町村長など、ほとんどの行政庁。
- 合議制:国における内閣、国家公安委員会、公正取引委員会、人事院など、地方公共団体における教育委員会、選挙管理委員会、公安委員会 など。
(2)諮問機関
行政庁から諮問を受けて、審議、調査し、意見を具申する機関。各種の審議会、調査会(公務員制度調査会)など。諮問機関の意見に法的拘束力はありませんが、できるだけ尊重されるべきとされています。
(3)参与機関
行政庁の意思を法的に拘束する議決を行う行政機関。電波監理審議会(電波法94条に基づく総務大臣の決定を拘束する)、検察官適格審査会(検察庁法23条に基づく法務大臣の決定を拘束する)、労働保険審査会など。
(4)監査機関
行政機関の事務や会計の処理を検査し、その適否を監査する機関。会計検査院、監査委員など。
(5)執行機関
行政目的を実現するために必要とされる実力行使を行う機関。自衛官、警察官、海上保安官、徴税職員、消防職員など。
※地方自治法では、議会を「議決機関」とし、その対比として知事部局を「執行機関」と定めていますので注意が必要です。
(6)補助機関
行政庁その他の行政機関の職務を補助するために、日常的な事務を遂行する機関。副大臣、事務次官、局長、課長から一般職員の多くがこれに入ります。ただし、人事・恩給局長のように行政官庁としての性格を兼ねるものもあります。
国の行政機関国の行政機関は、地方公共団体(地方政府)と対比して、中央省庁、中央官庁あるいは単に省庁、府省と呼ばれます。
一般的には、国家行政組織法において「国の行政機関」と定める省とそれらの外局(委員会、庁)、および、内閣府設置法に定める内閣府とその外局(委員会、庁)を指します。また、単に「国の行政機関」もしくは中央省庁といった場合、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国家公安委員会(警察庁)の1府13省庁を指します。
現行の中央省庁は、2001年(平成13年)1月6日の中央省庁再編で体制の大枠ができたといわれています。
行政機関のうち各省の長は、それぞれ各省大臣といいます(国家行政組織法5条1項)。各省大臣は、内閣法にいう「主任の大臣」として、それぞれ行政事務を分担管理します(同条同項)。
各省大臣は、国務大臣の中から内閣総理大臣が命じ、または、内閣総理大臣自らこれに任じます(同条2項)。その他、委員会の長は委員長とし、庁の長は長官とします(同法6条)。
なお、会計検査院は、内閣に属さない唯一の国の行政機関です。
日本の行政機関のトップはいうまでもなく内閣総理大臣であり、国会議員の中から選ばれ(指名され)ます(憲法66条、67条)。これは議院内閣制と呼ばれ、ある意味で日本の政治運営を決定付けているといえます。
議院内閣制は大統領制、超然内閣制、議会統治制などと並ぶ、議会と政府との関係の点から見た政治制度の分類の一つで、議会と政府(内閣)とが分立した上で、政府は議会(特に下院)の信任によって存立する政治制度です。そこでは首相が内閣を、内閣は多数党を、多数党は議会を、それぞれ統率・指導・統制し、議会の多数党は国民の投票によって決定されます。
したがって、たとえばアメリカのように議会と大統領とがお互いに完全な緊張関係を持ち合う場合とは、政治運営のしかたが全く異なるといえます。
日本の内閣制度は官僚内閣制と表現されることがあります。
議院内閣制の下では国民(有権者)→議会(議院)→内閣(首相・大臣)→行政各部(官僚)という権限の委任と監督の連鎖が本来生じるものですが、その説によると、日本の内閣制度の基本的特徴はこの権限委任の連鎖が首相以降の部分でいったん断ち切られていることにあるというのです。
それは他でもない「官僚」の存在です。内閣の意思決定は全会一致を基本原則としますが、一方で各省庁は高い自律性を持った官僚集団であり、大臣は各省庁の代表者としてその意思を代弁する者となってしまい、また、個々の政策決定には官僚の同意を必要とし、内閣の意思決定のためには省庁の官僚間での調整が必要とされることとなり、首相が独自に政策形成や意思決定、政策転換を行うことが困難となるという指摘があります。
そうしたこともふまえ、近時は、総理とその周辺がイニシアチブをとって官邸主導の政治運営にしていこうとする動きも目立ちます。この問題については、時の政権の思い付きなどでなく、何が国民の意思の反映となるのか、政治的な立場を超えた、ていねいな議論が求められるといえるでしょう。
裁判所
裁判所は、司法権の行使を担う国家機関です。
日本国憲法76条1項は「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と規定し、裁判所に司法権が帰属することを明確にしています。
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有します。
本稿では、日本の裁判所の概要を解説します。
裁判所の構成は裁判所法に定められています。それによれば、裁判所は、全国に一つの最高裁判所(最高裁)と下級裁判所からなり、最高裁判所は、最高裁判所長官(1名)と最高裁判所判事(14名)の計15名の裁判官により構成されます(5条)。
また下級裁判所には、高等裁判所(高裁)、地方裁判所(地裁)、家庭裁判所(家裁)、簡易裁判所(簡裁)があります。下級裁判所の裁判官は、高等裁判所の長たる裁判官を高等裁判所長官とし、その他の裁判官を判事、判事補及び簡易裁判所判事とすると規定されています(同条)。
高等裁判所には支部を置くことができ(裁判所法22条)、地方裁判所・家庭裁判所には支部または出張所を置くことができます(同31条、31条の5)。また、知的財産権に関する事件を専門的に取り扱う裁判所として、知的財産高等裁判所(知財高裁)が、東京高等裁判所の「特別の支部」として設置されています(2005年(平成17年)4月より)。
特別裁判所と行政審判日本国憲法では、特別の事件や人を裁判の対象とする特別裁判所は、設置することができないと定められています(76条2項)。この規定は、平等原則や司法の民主化、法の解釈の統一などを、その趣旨とするものといわれます。
なお、家庭裁判所のように、特定の種類の事件を扱う裁判所であっても、通常の裁判所の系列に属する下級裁判所として設置される裁判所は、憲法が禁止する特別裁判所にはあたらないと解されています。
また、憲法は「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」とも定めています(同条同項)。この規定の趣旨も、特別裁判所の設置禁止と同様で、逆に終審としてではなく前審として行うのであれば、行政機関が裁判(正確には行政審判)を行うこともできると解釈されています。
独占禁止法に基づく公正取引委員会の審決、国家公務員法に基づく人事院の裁定、行政不服審査法に基づく行政機関の裁決、特許審判、労働委員会命令など、裁判手続によらずに迅速に判断できる制度を置いています。
最高裁判所は、1947年(昭和22年)4月16日に成立した裁判所法に基づき、同年5月3日の日本国憲法施行と同時に設置された、日本の司法機関における最高機関です。
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について最高裁判所規則を制定する権限(憲法77条1項)、また、下級裁判所裁判官任命における指名権(憲法80条1項)、司法行政監督権を持っています(裁判所法80条1号)。
最高裁判所は、日本国内の裁判事件の、上告及び訴訟法が定めている抗告について、最終的な判断を下す権限を持っています(最終審)。そのうえで、違憲審査制における法令審査権を持ち、法令審査に関する終審裁判所となります(憲法81条)。このため、最高裁判所は「憲法の番人」と呼ばれることもあります。
最高裁判所の最も重要な機能は、上告事件について法令の解釈を統一すること、および、憲法違反の疑いのある法令などについて最終的な憲法判断を下す(違憲審査制)こと(憲法81条参照)にありますが、日本では憲法訴訟を可能とするための違憲裁判手続が未だ制度的に確立しているとはいえず、その証拠に外国では存在する「憲法裁判所」も日本には存在しないのが現実の姿で、通常の訴訟の中で違憲が争われた時にはじめて判断するにすぎません。そうしたあり方には賛否両論があります。
最高裁判所の判決における傍論の扱い
最高裁判所の判決文には、判決となった多数意見と別に、傍論として、裁判官それぞれの個別意見が表示されることがあります。意見には一般に、補足意見、意見、反対意見があります。
・補足意見とは、多数意見に賛成であるが、意見を補足するもの。
・意見とは、多数意見と結論は同じであるが、理由付けが異なるもの。
・反対意見とは、多数意見と異なる意見をいう。
・追加反対意見は反対意見にさらに補足するもの。
判例集の編纂
日本では、公式の判例集の編纂は、最高裁判所自身が判例委員会によって行っています。原則として月1回出版されており、最高裁判所民事判例集、最高裁判所刑事判例集等があります。
裁判所ウェブサイトでは、最高裁判所判例集、高等裁判所判例集。下級裁判所判例集、行政事件裁判例集、労働事件裁判例集、知的裁判判例集を検索することができます。
下級裁判所とは、日本の裁判所の中で最高裁判所を除くすべての裁判所のことです。最高裁判所に対する関係で「下級」の裁判所であることを示す憲法上の用語・法令用語であることから、最高裁判所に次いで上級の裁判所となる高等裁判所も下級裁判所に属します。
下級裁判所については、法律の定めるところにより設置する(日本国憲法76条1項)とされ、裁判所法2条1項において高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所という種類が定められ、同条2項及び下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律において、各裁判所の設立、所在地及び管轄区域について定められています。
高等裁判所高等裁判所は、最高裁判所の次に位置し、全国の8か所にあり、概ね控訴審を担当します。本庁のほか、必要に応じて各本庁管内に支部が置かれています(裁判所法22条)。
また、2005年(平成17年)4月より、知的財産に関する係争について専門的に取り扱うための知的財産高等裁判所が東京高等裁判所の「特別の支部」として設置されました。
高等裁判所の長たる裁判官は高等裁判所長官といい(裁判所法5条2項)、管内の司法行政上の事務を統括しています。
高等裁判所が裁判権を有する事項の主なものは以下のとおりです。
・裁判所法16条各号で規定されるもの:民事・刑事の控訴事件、抗告事件、内乱、内乱予備、内乱陰謀、内乱等幇助の罪に係る訴訟の第一審
・裁判所法17条による、他の法律において特に定める権限:人身保護法4条の人身保護請求の第一審、公職選挙法第15章「争訟」で規定される行政訴訟の第一審
・独占禁止法85条に規定される、独占禁止にかかる訴訟の第一審(東京高裁)
・特許法178条などで規定される特許庁の審決及び再審の却下の決定に対する第一審(東京高裁の知財高裁)
・海難審判法44条で規定される、海難審判所の裁決に対する訴訟の第一審(東京高裁)
・電波法及びそれに基づく命令の規定による総務大臣の処分に対する訴えの第一審(東京高裁)
このほか、知的財産高等裁判所は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権、著作者の権利、出版権、著作隣接権もしくは育成者権に関する訴えまたは不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴えについての地方裁判所の第一審判決に対する控訴で審理に専門的な知見を要するものを、そして特許庁の審決及び再審の却下の決定に対する訴えを、取り扱います。
地方裁判所地方裁判所とは、特定の地域を所管する裁判所を意味し、一般に、通常司法事件(数としては全体の中のほとんどです)の第一審裁判所としての役割を担っています。
また、簡易裁判所の民事の判決に対する控訴事件の第二審、各種令状に関する手続きも行います。そのほか、訴訟以外の事件、会社更生、民事再生法、破産などに関する手続も行っています。
地方裁判所は、各都道府県庁所在地並びに函館市、旭川市及び釧路市の合計50市に本庁が設けられているほか、支部も設けられ、支部を含めて全国に253ヶ所設置されています。
家庭裁判所は、主に家事事件手続法と少年法を対象法規とし、また離婚などの人事訴訟関係や、戸籍名(氏名)の変更、性別の変更、養子などの審判も取り扱っています。
裁判官以外とは別に家庭裁判所調査官が置かれ、人間科学に関する専門的知見を活用して、家事審判、家事調停及び少年審判に必要な調査や環境調整などの事務を行っています。
裁判は、通常公正を期すために公開されるのが原則ですが、家庭裁判所では離婚などの事件を除き、当事者のプライバシーに配慮し、原則として非公開とされています。
家庭裁判所は、各都道府県庁所在地並びに函館市、旭川市及び釧路市の合計50市に本庁が設けられているほか、支部及び出張所も設けられています。支部を含めほぼ地方裁判所と同様の配置だと理解すればわかりやすいでしょう。
簡易裁判所先述のように地方裁判所は、通常第一審事件を管轄していますが、これに対し、訴訟価額が140万円以下の請求(行政事件訴訟を除く)による民事事件と、罰金以下の刑(他には拘留、科料)にあたる刑事事件については、簡易裁判所が第一審の役割を果たしています。また裁判以外では、調停委員を交えた当事者間の話し合いにより紛争解決を図る民事調停も、簡易裁判所の業務です。
現在、全国の主要・中小都市を中心に400数十箇所に設置されています。
参考コンテンツ:
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法令
法令とは、一般に、法律(国会が制定する法規範)と命令(行政機関が制定する法規範)を合わせて呼ぶ法律用語です。また、諸々の制定法の中では、法律と命令のほか、条例や最高裁判所規則、訓令なども「法令」に含めて指す場合があります。
このように、「法令」という用語の使い方は必ずしも一定していません。ここでは、定義はともかく、守備範囲としては、広く「法令」と呼ばれる法規範について、その概要を解説します。
総務省行政管理局が、法令データ提供システムで整備・提供している法令の数は以下の通りです。誰でもインターネットで閲覧できます。
- 憲法:1
- 法律:1,958 ※太政官布告1件(爆発物取締罰則)を含む。
- 政令:2,143 太政官布告6件を含む。
- 勅令:73
- 府令・省令:3,740
- 閣令:11
- 規則:337
- 合計:8,263
※2016年(平成28年)8月1日現在の法令数(同日までの官報掲載法令)。
このほか、議院規則、最高裁判所規則、条例があります。
日本の法令には、種類ごとに優劣関係があります。上位の法令が優先され、上位の法令に反する下位の法令は効力を持ちません。優劣関係は、おおむね次のようになっています。
憲法 > 条約 > 法律 > 命令 (政令 > 府省令)
この他、法律または命令に準じる最高裁判所規則、命令に準じる議院規則(衆議院規則、参議院規則)があります。これらの優劣関係については、法令の対象となる事項にもよりますが、憲法と条約との関係、条約と法律との関係、法律と最高裁判所規則との関係については、争いがあります。
地方自治体が制定する条例との関係性は、以下のように整理することができます。
国の法令 > 条例 > 規則
法令の主な種類の定義と制定方式- 憲法:国家の基本秩序を定める根本規範です。統治機構や国民の権利・義務などを定めています。改正の手続は憲法自身に定められており、厳格な手続き要件を要します。
- 条約:国際法上で国家どうし、あるいは国際連合などの国際機関で結ばれる成文法です。日本国が批准により同意しているものは、公布され、国内では法律より優先します。条約は憲章、協定、議定書などの名称で締結されますが、法的には条約として扱われます。
- 法律:国会の議決により成立する成文法の一形式。例外として、地方自治特別法(一の地方公共団体のみに適用される特別法)は、国会の議決のほか、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意が必要です。成立した後、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署して、天皇が公布します。
- 命令:行政機関が制定する成文法の総称。法律の範囲内において定められます。政令、府省令、その他の命令の3種があります。
- 政令:内閣が制定する成文法。法律の実施に必要な細則や法律が委任する事項を定めています。閣議によって決定され、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署して、天皇が公布します。
- 府省令:内閣府総理大臣が発する成文法である内閣官房令、内閣府令および復興庁令と、各省大臣が発する成文法である省令の総称。内閣官房令、内閣府令、復興庁令および省令の間で上下の序列はありません。複数の府省の所掌事務にわたる事項について定められる府省令は、複数の府省の主任の大臣が共同で発します。
- 内閣官房令:内閣総理大臣が内閣官房に係る行政事務について発する成文法。
- 内閣府令:内閣総理大臣が内閣府に係る行政事務について発する成文法。
- 省令:各省大臣が発する成文法。省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、または義務を課し、もしくは国民の権利を制限する規定を設けることができません(国家行政組織法12条3項)。
- その他の命令:その他の命令は、その発する機関、根拠法、沿革などにより、政令または府省令に並び、政令または府省令の下位に位置します。
- 会計検査院規則:会計検査院が定める成文法。会計検査院法38条は「この法律に定めるものの外、会計検査に関し必要な規則は、会計検査院がこれを定める。」と定めています。会計検査院が憲法に設置根拠を持ち(憲法90条2項)、内閣に対し独立の地位を有する(会計検査院法1条)ことから、会計検査院規則は政令または府省令に準じる効力を持つと解されています。
- 人事院規則・人事院指令:人事院規則・人事院指令は、いずれも人事院が定める成文法。人事院が内閣の所轄の下に置かれる機関であるため(国家公務員法3条1項)、人事院規則・人事院指令は政令または府省令に準じる効力を持つと解されています。
- 議院規則:衆議院・参議院が各々定める成文法。衆議院が定める衆議院規則と、参議院が定める参議院規則があります。各議院が、それぞれ単独の決議により、議院における会議その他の手続及び内部の規律について定めます。
- 最高裁判所規則:最高裁判所が、裁判官会議の議に基づいて定める成文法。訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について定めます。日本国憲法77条1項を根拠としています。また、最高裁判所規則で定め得る事項については、法律で定めることも許されると解されます(たとえば、民事訴訟法と民事訴訟規則の関係など)。
- 地方公共団体の法令=条例:地方公共団体の議会が制定する成文法。憲法94条は「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」と定めています。条例は、当然のことながら当該地方公共団体内でのみ効力を有し、法律の範囲内でのみ制定することができるものです。地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならないとされます(地方自治法14条)。
- 告示:内閣、内閣府および各省庁、裁判所、地方公共団体等、公の機関が必要な事項を公示する行為、またはその行為の形式。国の機関が行う告示は官報に、また地方公共団体が行う告示は公報に、それぞれ掲載する方法によって行われます。告示には法令としての性質を含むものもあります。
次のものは法令とはいえないものの、しばしば法令の解釈の参考にされる規範です。
- 国会決議(衆議院決議、参議院決議)
- 閣議決定、閣議了解、閣議報告
- 予算
- 規格(日本工業規格、日本農林規格など)
- 告示
- 訓令(行政機関およびその職員を対象として定められる命令)
- 通達(上級機関が下級機関に対して、その機関の所掌事務について示達するため発翰する公文書のこと。法令の解釈等を示すものとして、当該法令を所管する省庁が下級機関に対して発翰することが多いですが、あくまで行政機関内部の文書であることから、通達で示された法令の解釈は司法の判断を拘束しないものの、行政解釈を知る手段として重視されると解されています。)
- 行政実例(法令の適用にあたって、その法令を所管する機関が示す解釈)
- 規程
- 要綱(組織要綱、助成要綱、指導要綱等)
- 会計基準(企業会計原則、原価計算基準など。公益財団法人財務会計基準機構内の企業会計基準委員会により定められます。公認会計士らに対する強制力はあるとされるものの、法令ではなく、法令のような一般的な強制力はありませんが、商法・会社法・金融商品取引法などの会計制度に関係する法令を制定・改正するに当たっての指針とされるなど、法令よりも上位に位置づけられることもあります。)
法律全般
法は、道徳などと区別される社会規範の一種といえます。通常、「法」というと、国会で制定された「法律」をイメージする方が多いかもしれません。もちろん法律が法の中の中心要素であることは確かです。しかし、法の中身は法律だけではありません。
また一般的にイメージされる法の属性としては、一定の行為を命令・禁止・授権すること、違反したときに強制的な制裁(刑罰、損害賠償など)が課せられること、裁判で適用される規範として機能すること、などがあげられます。
ここでは、特定のテーマによらず全般にわたって、広く法にはどのようなものがあり、どのような役割を社会の中で果たしているのか、などについて解説していきます。
まず、法という規範の存在形式を把握しましょう。それを法源といいますが、法源にはどのようなものがあるでしょうか。
最も典型的なものは、先に述べたように、制定法(狭義の法律)といっていいでしょう。しかしそのほかにも以下のものがあります。
(1)慣習法
社会の慣習を基礎として妥当する規範のうち、法として社会から確信されるに至ったものを指します。制定法が整備されている国家においては、成文法を補完する役割にすぎません。しかし、制定法の欠けている部分を補充する役割があり、また解釈論として一定の範囲で制定法に優先する効力を認める見解もあります。慣習法は、通常は判例を通じて明確化されることとなります(例:入会権)。
(2)判例法
裁判所の判決中にある重要な法的判断に、法源としての効力が認められる場合、そのような法体系を判例法と呼びます。法学研究の伝統的な理解によると、いわゆる英米法系の国では、判例法が法の中心に置かれ判例の先例拘束性が認められるのに対し、日本を含めいわゆる大陸法を基調とする国においては、判例に事実上の拘束力があることは肯定しつつも、法源としての力は英米法国ほどにはないといわれています。しかし、そのような国でも(もちろん日本でも)、判例が重要な位置づけを占めていることも多く、いまやその差は大きいものとはいえません。
(3)条理
端的にいえば、物事の筋道のことを指します。法令に欠陥がある場合などに条理が法源とされる場合があります。その場合、条理を法源とする法の内容は、通常は判例を通じて明確化されることとなります。しかし、過去に制定された裁判事務心得(明治8年太政官布告第103号)3条は、「民事ノ裁判ニ成文ノ法律ナキモノハ習慣ニ依リ習慣ナキモノハ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ」として、適用すべき法がない場合は条理によるべきことを規定しています。この太政官布告が現在でも有効な法令であるか否かについては見解が分かれていますが、条理に従うとしても条理自体は法源としての一般的な基準にはならず、法の穴を埋めるための解釈の問題に解消されるとも言い得るでしょう。
(4)学説
古代ローマの時代ならともかく、日本を含めほとんどの国においては、法の解釈について学説を参考にすることはあっても、法学者の学説自体に法源性があるとは、現代社会では認められていません(スコットランド法など例外はあります)。ただ、たとえば実際の裁判において、非常に権威のある学者の見解が裁判官の判断に強い影響力を与え、その見解が当然の前提とされるといったことは、日本でもしばしば見られることです。
ところで、法は何のためにあるのでしょうか。もっと先になされるべき問いかけかもしれませんが、これまで法哲学の分野では、この問いかけのためにたくさんのエネルギーが費やされてきました。そうした知的営みを概観する余裕はありませんが、おおまかに把握すれば足りるでしょう。
しかも、一つひとつの制定法には、必ず「目的規定」と呼ばれる条項があり、そこにはその法の制定目的が明確に書かれていますから、個々の法律の目的は、はっきりしているのです。
そこで、一般に法は何のためにあるのか。それは、(1)まずは法的安定性を保つため、つまりは秩序の維持を目的としているということが挙げられます。取引の安全や安定もこれに入ります。(2)次には具体的妥当性といわれる価値の実現が挙げられます。「正義の実現」と呼ばれることもあります。とりあえず以上の(1)(2)を法の目的として頭の片隅に置いておいて下さい。
法の分類法は、様々な観点から分類されます。
- 抵触法と実質法
たとえば多数国間に法的トラブルが称した際に、国によって事案に直接に適用される実体法や手続法(実質法)が異なるため、いずれの国における実質法に準拠すべきかが先に決まっていなければなりません。抵触法とは、当該事案において準拠すべき実質法(準拠法)を指定する法のことを指します。 - 公法と私法
大まかにいえば、公法とは、国家と市民との関係を規律する法をいい、私法とは、私人間の関係を規律する法をいいます。具体的には、憲法や行政法が前者の典型であり、民法や商法が後者の典型とされています。ただ、取引関係に国家が介入することを予定した経済法を中心に、公法と私法の中間領域と認められる法分野も発達してきており、両者の区別は専ら理念優先の区別ともいえるでしょう。 - 実体法と手続法
実体法とは、法律関係それ自体の内容を定める法のことをいい、手続法とは、実体法が定める法律関係を実現するための手続を定める法のことをいいます。民法、商法、刑法が前者の典型であり、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政不服審判法などが後者の典型です。また、手続法のうち、手続の形式が訴訟の形式を採る場合は、その手続法を訴訟法といいます(狭義の手続法)。 - 民事法と刑事法
私法に関する実体法と手続法を総称して民事法といい、犯罪と刑罰に関する実体法(刑法など)と手続法(刑事訴訟法など)を総称して刑事法といいます。法に違反した場合の「サンクション」の観点からは、民事法は損害賠償責任やそれに基づく私法上の権利の強制執行を内容とするのに対し、刑事法は国家権力による刑罰を内容とするという違いがあります。ただ英米法系国における「懲罰的損害賠償」という考え方など、どちらともいえないものもあります。 - 国際法と国内法
国内法は、制定されれば、法の強制力(命令・行政処分・刑罰等)を有し、国家機関によって執行されます。これに対し、国際法の効力は、原則として、関係国家による同意を根拠にしており、また直接的な強制力を持つ一般的機関は現時点では、人権と基本的自由の保護のための条約の規定により設置された欧州人権裁判所を除いて存在しません。国際法は、対話と同意が基本原則のため、一般の持つ法(=国内法)というイメージとは異なる部分がありますから、注意が必要です。
ある現象に対して法令を適用する際に、複数の法令が適用され得る場合、優先順位をつけなければ混乱してしまいます。優先順位に関するルールを、そのルールの中での優先度の高い順に並べると以下のようになると考えられています。この優先順位の理解は大変重要です。
- 上位法令の優先
法令にはその形式に応じて優先度の順位が自ずと決まっており、たとえば、日本法においては、日本国憲法のある規定と法律のある規定が矛盾・抵触する場合、憲法の規定が優先され、当該法律の規定は原則として無効となります。 - 一般法と特別法
同一の順位の法令であっても、一般法(広い範囲に適用される法令)と特別法(そのうちのある特定の範囲にのみ適用される法令)を比べるとどうでしょうか。ある事象に対して特別法が存在する場合には、一般法よりも特別法が優先されます(特別法優先の原則)。この例は数えきれないほどありますが、たとえば、訪問販売にかかるトラブルは民法では対処が難しかったので、特定商取引法を特別法として制定しました。この場合、特定商取引法が民法に優先することになります。 - 後法の優先
同一の順位で、かつ、一般法と特別法の関係でない形で、前法(従前からある法令)と後法(新しく制定された法令)がある場合は、後で決めたほうが優先されます(後法上位の原則)。 したがって、法令の内容を改正する場合には、同一順位の法令を制定することによって行われます(改正したい対象が政令であれば政令で改正します)。特殊な例としては、条約と法律を同順位とする国においては、条約の国内法的効力が、その後に制定された法律によって覆されることがあります。(日本の例ではありません。)
法は、何故制定されたり、生成されたりし、運用されるのか。誰のためなのか。こうした視点を持つことは、決して無駄ではありません。個々の法律や制度の良し悪しを検討し、見直しをしたり、また新たな法律を制定するべきか検討する際にも、必ず役に立つと思われます。
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