
企業法務
企業法務の仕事には、企業の事業活動に関わる法律上の業務がすべて含まれます。それだけ企業の中において、広くかつ重要な業務分野であるといえるでしょう。企業の設立、取引、人事・労務、そして解散に至るまで、すべての活動に法律は密接に関わっています。
これから、企業法務の仕事を全般にわたって概説し、続いて、企業法務で扱われる主なテーマを取り上げて解説します。
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企業法務の仕事
企業法務の仕事としてまず挙げられるのは、法的トラブルへの対応です。取引先の倒産やクレームの発生といった問題が発生した場合に、裁判を含めた法的対応を行い、問題を解決することが求められます。
このような法務の仕事を「臨床法務(治療法務・裁判法務)」といいます。
しかし、トラブルは未然に防ぐに越したことはありません。契約締結前に契約書をチェックし、紛争の発生を予防するために条項の追加・修正を行ったり、従業員にコンプライアンス教育を行ったりして、不祥事を起こしにくい業務体質にしていくことも重要です。
このような法務の仕事を「予防法務」といいます。
最後に、企業経営上の重要な意思決定に参加し、その意思決定にかかわる法律事務を行うこともまた、高次の企業法務といえます。企業の買収や合併(M&A)、新製品の開発などにあたり、法的リスクの分析や効果的な知的財産権の活用方法を提案することで、企業価値を高める意思決定のサポートを行います。このような法務の仕事は「戦略法務」と呼ばれています。
企業法務は、担当者が一人であろうと100人いる大法務部門であろうと、企業法務は企業法務ですが(法務はあくまで仕事自体を指します)、各企業でこの業務をどう位置付けているかは、各々です。
総務部や企画部の一部門(「法務課」、「法規課」)として設置されていた会社が、かつては多かったのですが、法務業務の重要性が認識されるようになり、独立した「法務部」として設置される例が増えてきました。上場企業等約1,000社のうち、40%を超える企業が法務部を置いているといわれます。
法務の仕事は多岐にわたりますが、代表的な業務を挙げるなら、以下のようになります。なお、知的財産や内部統制関連の業務については、別途違う部署を設置している企業も少なくありません。
- 契約関連業務(契約書の作成、審査、交渉、手続)
- 社内規程関係(労働法務を含む)
- 株主総会、取締役会についての準備、手続
- 不動産業務(担保管理、建設プロジェクト運営)
- ライセンス取得関連(許認可)
- 法律相談、訴訟・係争対応
- アライアンス、M&A等の契約ドラフト、交渉
- リスクマネジメント(社内的危機管理)
- 内部統制、コンプライアンスプログラムの策定と管理
- コーポレートガバナンス体制構築の検討
- 知的財産(法的手続、管理)、商標調査
- 顧問弁護士、官公庁との交渉
- 立法・判例動向の調査、分析とビジネスへの適切なフィードバック(海外法制度調査を含む)
では、ここからは、企業法務で扱う主なテーマについて、それぞれ解説していきます。株主総会、取締役会、顧問弁護士、債権回収、会社設立、危機管理(リスクマネージメント)、契約書、労働法務、商業登記、M&A・アライアンス、知的財産、事業再生・倒産、ファイナンス(資金調達)、税務の順に追って行きましょう。
株主総会
株主総会とは、株式会社の中の組織のことで、株主で構成され、会社の基本的な方針や重要な事項などを決定する機関と定義されます。国民=株主と置き換えると、会社は民主主義国家に似ているといえるかもしれません。取締役会は内閣にあたるでしょうか。
この項では、株主総会の役割や運営実務について説明します。なお、本稿で掲げる法条は、特に断らない場合、会社法を指します。
株主総会の役割をひとことでいえば、会社運営上基本的または重要な事項を決定することですが、その一方、会社法では、株主総会は取締役とともに必要的機関とされているのに対し、取締役会、監査役(381条)、監査役会(390条)などは任意設置機関なので、それらが設置されない場合には株主総会が直接代わりを務めなければいけません。
ですから、株主総会の役割と権限については、取締役会非設置会社と取締役会設置会社とでは業務の範囲が全く異なってくるのです(295条)。
株主総会の構成員は株主であり、1株以上の株式を有していればその人は株主(=株主総会の構成員)になります。
開催時期
株主総会は、事業年度ごとに必ず1回開催しなければなりませんが、必要に応じていつでも開催することができます(296条)。前者は定時株主総会、後者は臨時株主総会といわれます。日本では基準日制度(株主としての有効期間を確定するための基準日)を採用している会社が大半で、権利行使できるのが基準日から3ヶ月以内、と124条2項に規定されているため、3月期決算が多い日本では、基準日の3月末から3カ月以内の6月末までに定時株主総会を開催する場合が大勢です。
かつて、総会を特定の日に集中させることで総会屋の出席を実質的に排除し総会を円滑に進める目的で、6月下旬に集中して開催されていましたが、総会屋の活動が以前と比べるとやや弱まったことや、株主総会をもっと出席しやすい日程にする考え方が浸透してきたことなどにより、いまでは分散化が進み、1995年の96%をピークに大幅に集中率は減少し、2016年には30%代にまで下がってきました。
招集手続
会社法上は「取締役が招集する」とのみ規定されています(296条3項)が、実際には代表取締役が招集するのが通例です。また、総株主の議決権の100分の3以上の株式を有する少数株主は、招集目的、理由を付して取締役に招集を請求することができます(297条1項)。
招集通知は、株主に出席の機会と準備の時間を与えるため、期日より2週間前に発信しなくてはなりません(299条1項)(非公開会社は1週間)。
招集通知への記載事項は会社法298条1項、299条4項に規定されています。その主な内容は、(1)株主総会の日時と場所、(2)株主総会の目的である事項があるときは、その事項、(3)株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨、(4)株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨、(5)法務省令で定める事項、などです。
また、取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、株主に対し、承認を受けた計算書類及び事業報告を提供しなければならない、とされています(437条)。
提案から質疑、決議までの運営の実際総会の本番では、決議事項などについて提案→質疑→決議が行われます。決議事項は以下の3つに分かれます(必要賛成数が違うことに注意)。
- 普通決議:役員の選任・解任やその報酬決定、共有物の果実たる剰余金の配当、欠損填補のための行為などに適用される(出席株主の議決権の過半数の賛成)。
- 特別決議:株式の併合や監査役の解任、定款の変更、解散などについて決議する(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)。
- 特殊決議:全部の株式を譲渡制限とする定款の変更、新設合併契約等の承認などについて決議する(議決権行使できる株主の半数以上でかつその株主の議決権の3分の2以上の賛成)。
※以上の他に、特殊普通決議、特例有限会社の特別決議があり、また特殊な事項については、総株主の同意を要する場合があります。
議案については、議決権のある株主であれば、過去3年以内に賛成10%未満の議案を再提案した場合など、特殊な例外を除き、株主総会の場において議決すべき議案を提出することができます。
各株主は、1株または1単元株毎に1票が与えられ、通常は多数決によって議事を決します。また、現在はインターネットを通した投票も可能になっています。
事務局としての留意点
事務局は、それぞれの役割を事前に明確にしておき、やるべきこと、対応すべきことに抜けが無いように体制を整え、なるべく書面化しておくのがミスを防ぐためには有効でしょう。予想される展開に応じた行動をシナリオ化しておき、その場で判断する部分を最小にしておきます。
また、出される動議は、延会を求めるもの、議長不信任案、会計監査人の出席を要求するもの、休憩を要求するもの、また修正動議として、議案の内容を修正して決議にかけるよう要求するもの、などさまざまです。動議なのか意見なのかで扱いが全く違ってきますので、事務局は、どちらなのかを公正・明確に判断し動議であれば、その旨議長に伝達します。
議事録の作成総会が終わったら、議事録を作成します。議事録は株主総会の日から本店に10年間、議事録の写しをその支店に5年間、備え置かなければならないとされています(318条)。
議事録記載事項は、開催日、開催場所、出席株主数、株式数、報告事項の概要、決議議案の内容、審議内容、採決結果、その他動議の内容とその採決結果などです。議事録の作成期限は、登記申請がある場合、申請手続が、総会終了後2週間以内と決められているので、それまでには作成しておく必要があります。
そうでない場合も、できる限り速やかに作成するのが通例です。
取締役会
取締役会とは、株主総会で任命された経営者で構成される3名以上の取締役からなる、会社の業務執行の意思決定機関(合議体)です。「役会(やっかい)」、「ボード」とも呼ばれます。
取締役会は、株主総会(会社の基本的な方針や重要な事項などを決定する機関)と並んで、会社の根幹となる組織といえます。ここでは、取締役会の構成、目的、役割など概要を把握しつつ、運営のポイントなどについて説明します。なお、本稿で掲げる法条は、特に断らない場合、会社法を指します。
会社法の規定により取締役会を置かなければならない株式会社(2条7号)=取締役会設置会社においては、取締役は3名以上(331条5項)で、すべての取締役によって構成しなければなりません(362条1項)。
またいわゆる公開会社では取締役会の設置自体が義務付けられています(327条1項1号)。
取締役会は、会社の業務執行の決定、取締役(代表取締役を含む)の職務執行の監督、そして代表取締役の選定・解職を行います(362条2項)。また、代表取締役以外に業務を執行する取締役を選定することもできます(363条1項2号)。
取締役会は、次に掲げる事項やその他の重要な業務執行の決定については、一人ひとりの取締役に委任することができません(専決事項)。つまり、あくまで取締役「会」として行うのです(362条4項)。
- 重要な財産の処分と譲受け
- 多額の借財
- 支配人その他の重要な使用人の選任と解任
- 支店その他の重要な組織の設置、変更と廃止
- 募集社債発行の決定
- 業務の適正を確保するための体制の整備
- 取締役の任務懈怠責任の免除の承認
- その他の決議事項
また、会社法上、たくさんの事項について取締役会の決議によることが規定されています。以下にその主なものを列挙します。
譲渡制限株式の譲渡の承認及び指定買取人の指定(139条1項、140条5項)、自己株式の取得価格等の決定(157条)、子会社からの自己株式の取得の決定(163条)、取得条項付株式の取得の決定(168条1項、169条2項)、自己株式の消却(178条)、株式分割(183条2項)、株式無償割当てに関する事項の決定(186条)、単元株式数についての定款変更(195条1項)、所在不明株主の株式の競売もしくは売却または買取(197条)、公開会社における新株発行とその内容の決定(201条、202条)、譲渡制限株式の割当てを受ける者の決定(204条)、1株に満たない端数の買取り(234条5項)、公開会社における新株予約権の発行とその内容の決定(240条、241条)、譲渡制限株式を目的とする募集新株予約権または譲渡制限新株予約権の割当てを受ける者の決定(243条)、譲渡制限新株予約権の譲渡の承認(265条1項)、取得条項付新株予約権の取得の決定(273条1項、274条2項)、新株予約権の消却(276条)、新株予約権無償割当てに関する事項の決定(278条)、株主総会の招集(298条4項)、訴訟における代表者の選任(353条、364条)、取締役による競業取引および利益相反取引の承認(356条、365条1項)、取締役会を招集する取締役の決定(366条1項ただし書)、特別取締役の設置(373条1項)、計算書類の承認(436条3項)、臨時計算書類の承認(441条3項)、連結計算書類の承認(444条5項)、一定の場合における資本金・準備金の減少(447条3項、448条3項)、中間配当の決定(454条5項)。
取締役会の運営代表取締役・業務執行取締役は、少なくとも3か月に1回は職務執行の状況を取締役会に報告しなければならない(363条2項)ため、最低3か月に1回は取締役会を開催します。
招集方法
取締役会は、各取締役が招集しますが、招集権者を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集します。この場合、招集権者以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができます(366条)。招集する者は、取締役会の日の1週間前までに、各取締役に(監査役設置会社では監査役にも)通知しなければなりません(368条1項)。
取締役会は、取締役(監査役設置会社では取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができ (368条2項)、また監査役設置会社では、監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならないとされています(383条1項)。監査役は、必要があると認めるときは、取締役に対し、取締役会の招集を請求することができ、招集の通知が発せられない場合は、自ら取締役会を招集することができます(383条2項)。
開催場所の規制はなく、テレビ会議や電話会議でも可能です。
決議の方法
取締役会の決議は、議決者取締役の過半数が出席し、その過半数で決議するのが原則です(定款でもっと高い割合を定めることもできます)(369条1項)。決議について特別の利害関係を有する取締役は取締役会の決議に参加できません(369条2項)。
取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができます(370条)。
議事録の作成
取締役会の議事について、議事録を作成します。議事録は、出席した取締役と監査役が、署名または記名押印します(株主総会の議事録では署名・記名押印が不要であるのと異なります)。取締役会の決議に参加して議事録に異議をとどめない取締役は、その決議に賛成したものと推定されます。
議事録の閲覧については、以下の通り定められています。
顧問弁護士
ここでは、顧問弁護士の目的、職務内容、賢い依頼法などについて説明します。
顧問弁護士を置くメリット会社に顧問弁護士を置くということは、当然社内の法律問題を担当してもらうことを前提に依頼することになります。しかし、「設立時はともかく、ふだん、常設の必要はないだろう」と考えて、特に弁護士と顧問契約を結んでいないケースも多いでしょう。
たしかに、日常の会社業務の中で、法律の専門家の意見を聞きたくなることは、そう多くないのが実情ともいえます。
では、弁護士に法律顧問をやってもらうのはお金の無駄遣いでしょうか。
答えは、それぞれの企業のケースによって違いますが、自分の会社の全体を冷静に見つめ、顧問弁護士に期待できることをしっかり知った上で、顧問料という経費との見合いから、最適な答えを出す姿勢が望まれます。
顧問弁護士がいると、どういうメリットがあるのでしょう。それはおおよそ以下のように挙げられます。
- 問題発覚時すぐに相談でき、迅速な対応ができる
- 会社の業務内容を理解した弁護士に相談できる(効果的な解決法の立案)
- 提言や社内教育などをしてもらうことを通してトラブルを未然に防ぐことができる
- 経営者は経営に専念できる
(1)問題発覚時すぐに相談でき、迅速な対応ができる
何か相談したいことが起きる都度、弁護士に相談する方法では、まず最適な弁護士を探し、法律事務所に連絡し、相談の可否及び費用を確認し、日程調整をして、はじめて相談することになります。顧問弁護士は、そうした相談までの手順を一挙に電話やメールひとつで済ますことができます。また、会社の問題の中には、まずそもそも弁護士に相談すべきかどうかを決める必要が出てくるでしょう。その判断に迷っていると、時間はどんどん経って行きます。顧問弁護士がいれば、迷うような問題についても、安心して気軽に相談することができます。
電話やメールで相談を受けた顧問弁護士は、すぐに稼働を始めます。また、日頃の相談によって、会社の事情も十分に把握しているので、対応も迅速でしょう。そのスピード感は顧問弁護士でなければ不可能です。
(2)会社の業務内容を理解した弁護士に相談できる(効果的な解決法の立案)
問題が起きた都度弁護士に相談する場合には、まず会社の概要を説明することが必要になり、時間と手間を取られてしまいます。しかも、短い相談時間の中で、弁護士が十分に会社の状況を把握できるとは限りません。しかし顧問弁護士がいれば、定期的・継続的に相談をする中で、会社の全般にわたって十分に情報共有ができます。会社の内部事情等を十分に把握した弁護士が問題解決に当たることで、実態に即した、最適な解決が可能となるのです。
(3)提言や社内教育などをしてもらうことを通してトラブルを未然に防ぐことができる
トラブルが発生してしまう手前の段階で相談し、本格的に紛争化する前に、迅速に問題を解決することが可能です。
また、顧問弁護士は事後的な対応以外にも、トラブルを未然に防ぐため、社内体制の構築や業務の見直し、場合によっては経営方針にまで及ぶ助言を受け、経営と社内教育とに生かしていくことが期待できます。これが顧問弁護士を活用する最大のメリットかもしれません。「法律問題が起きてから相談すれば十分」という姿勢でこれまで乗り切ってきたとしても、もう一度検討してみる余地があるでしょう。
(4)経営者は経営に専念できる
法律問題が発生したときは、経営者や役員、場合によっては会社全体がその対応に多大な労力と時間を割かれてしまいます。顧問弁護士に法律問題の対応を担ってもらえば、経営者は、会社の事業に専念することができ、また法律問題にも落ち着いた最適な答えを出すことができます。
顧問弁護士にデメリットはないのかでは顧問弁護士をつけることにデメリットはないのでしょうか。
考えられるのは、顧問弁護士に頼りきりになることによって、ものごとを客観に見る目を失ってしまう可能性があるかもしれません。
医療でいえば、一人の主治医に体を預けっぱなしでセカンドオピニオンを求めないようなものです。真に優秀な弁護士であれば、自己の業務を客観的に点検する姿勢を持っているはずですが、いつの間にか仕事がルーティンになってしまうことは、誰でもあり得ることです。
問題によっては、顧問弁護士以外の弁護士に意見を求めることも必要でしょう。
また、顧問契約を結ぶのですから、コストがかかるのは当然です。相談や事件処理の有無にかかわらず、毎月、固定の顧問料が発生します。日本弁護士連合会が弁護士に対して行ったアンケートによると、顧問料の相場は、月額5万円が全体の45.7%、3万円が40.0%、2万円が6.7%、10万円が5.7%とされており、月額3万円~5万円で顧問弁護士を依頼している会社が多いと思われます。
このコストを、依頼内容に見合ったコストととるか、見合っていないと判断するか、よく考えなければなりません。
顧問弁護士の主な仕事には、会社運営上日常に生じる、あらゆる法分野の法律相談が含まれます。また契約書のチェック、内容証明郵便等の書面の作成などがあります。
またこの他にも、訴訟対応や社内体制の構築等の提案、までも依頼することが可能です。
債権回収
貸したお金を返してくれない。商品の代金を払ってくれない。そんな場合に、お金を支払えと要求する権利のある者を債権者、お金を支払う義務のある者を債務者といいます。 そして、相手からお金を取り立てること(貸金、売買代金・売掛金の回収など、債権者が自分の持っている債権を回収すること)を債権回収といいます。
債権回収は、企業法務部門が担当する重要な業務です。せっかく立った売り上げが、しっかり入金され結果を出すために、債権管理業務全体の中で、債権回収はその最重要の位置を占めるといえます。ここでは、債権回収の全体像、手順、重要なポイントなどについて説明します。
債権回収は、適切な債権管理の中で適切なアクションを起こすことが求められます。
信用調査は、債権回収業務の第一歩ともいえます。取引が高額の場合には、必ず行います。しっかり調査し取引先を選んでいけば、自然に優良な相手とだけ取引できるというメリットもあります。
(2)請求する場面まず代金などを請求する場面では、主に以下の3つの方法で請求の具体的なアクションを起こします(簡便な順)。
- 電話をかける
- 普通の郵便で請求書を送る
- 内容証明郵便を送る
特に問題がなければ、まずは一律に(2)の方法を用いるのが通例でしょう。(3)の方法が必要なのは、再請求など(2)で支払がされなかった後に行い、(1)の方法は、主に催促のときに用いるのが通例です。
(3)支払を受ける場面通常、支払は振り込みがほとんどですが、直接自宅・会社に受け取りに行ったり、訪問を受ける場面もあります。
(4)話し合いをする場面(2)で回収されれば一件落着ですが、簡単にそうは行かないケースもあります。ここからが債権回収部門の腕の見せどころでしょう。(1)から(4)までこの場面の主なアクションを掲げました。
- 一部弁済を受ける
- 債務承諾書(支払約束書、念書)を作る
- 債務弁済契約公正証書を作る
- 新たに担保を取る
(1)(2)は、あとあと、債務者に時効の完成を理由に債務の不存在を主張された時にしっかりくぎを刺せるように、防御しておく意味があります。
(3)は、相手に債務があることをあらためて内外に示す際に、争いの余地のない明確な証(あかし)となります。(4)は、結局支払がされなかったときに代わりに処分できる担保物を確保する手段です。
本人から支払を受けられないときに、契約によっては、債務者以外からの支払を求めることができる場合があります。
具体的には、連帯債務者、保証人、連帯保証人を設定しておくことや、保証保険に入っておく、債務者の親族や知人などから第三者弁済受ける、などの場合が考えられます。ケースに応じて、どの手段が可能か、検討してトライします。
(5)と同時に検討が必要なのは、相殺、債権譲渡、代物弁済などの代替手段です。それぞれ、手順や現金化までのコストなどが違うので、正確な比較が求められます。
(7)法的手段をとるこれまでの手段でも効果がなかったとき、または場合によってはこれらと並行して、法的な手段を検討する必要があります。以下に掲げる各手段も、(5)以上に手続や法的手段の効果などが異なりますので、正確な比較をした上で、不払いの理由などによって適切な選択をすることが必要です。
またこれらを組み合わせることも考えます。相互の順番を含め、綿密に検討しましょう。
- 支払督促
- 少額訴訟
- 通常訴訟
- 手形・小切手訴訟
- 民事調停
- 即決和解
- 保全手続(仮差押、仮処分)
- 公正証書による強制執行
- 担保権の実行
取引先の支払が滞り、交渉でも思うように進まない場合には、裁判(民事訴訟)をすることになります。しかし証拠が十分でなくこちらの主張を立証できなければ、敗訴してしまいます。訴えた側がその訴えの正当性を証明しなければならないからです。
もちろん、直接的な証拠(たとえば貸付金であれば借用証)がなくても、その他の事実から立証できることもあります(貸付金であれば、当方の出金の事実と相手方の金回りがよくなった事実などから、貸付の事実を立証する、等)。
しかし、客観的な証拠が少なければそれだけ敗訴のリスクが高くなることは否定できません。
裁判を意識した証拠とは、第一に契約が成立していることを証するもの、つまり契約書です。売掛金の場合であれば、取引基本契約書(継続的取引の場合)、個別の契約書、商品の受領書など。貸付金であれば、借用証です。請負報酬であれば、基本契約書(ソフトウェア開発など複合的な作業を伴う場合)、個別契約書、検収書などがあります。
日々の取引においては、実際には「契約書」を作成していないこともあります。しかし、いざという場面で「言った」「言わない」の泥仕合に至ってしまわないようにするためには、たとえばまず、こちらの主張を裏付ける記載をした書面に、相手方の確認をもらっておくことが考えられます。
たとえば、売掛金の場合に「契約書」に代わる証拠として考えられるものとして、注文書を発送(Fax)してもらうのも方法です。その際には、商品名、単価、数量などを明確に記載してもらいましょう。注文書のひな形を作って渡しておき、それに記入してもらうなど、相手方の協力を得やすくする工夫が必要です。注文書をもらったら、注文請書を送付(Fax)します。
ここでも、ポイントは商品名、単価、数量や、代金支払期限、納品場所などの合意した条件を記載しておくことです。
会社設立
会社設立は、企業法務の最初の仕事ともいえるでしょう。本稿では、会社設立のステップを法的な側面から解説し、設立実務の重要なポイントを説明します。
会社設立のメリット会社はなぜ設立するのでしょう。あらためて会社設立の主なメリットを整理しておきます。
- 信用度:株式会社を作る最大のメリットは信用の獲得といえます。取引相手の条件になる場合もしばしばです。
- 節税と最大利益の確保:個人事業の時は経費として認められないものも、会社であれば経費として扱えるものがあります。また所得税と法人税のバランスの中から手元に残るお金を最大化できます。
- 社会保険料:従業員を雇うコストが倍増します。
※ただし、個人事業主であっても従業員を5人以上雇う時は社会保険に加入する義務が生じます。 - 法人税の均等割:赤字であっても年間7万円を納めなければいけません。
- 報酬:社長の給料は1年間変更できません。これは税金面からも重大な問題となります。
- 必要な手続きや実務が多い:源泉徴収の納付や各種保険の手続きなどやるべき実務が大幅に増えます。
これらを睨んで、個人事業主で起業するか会社にしてしまうか、判断していきます。
会社設立のステップ会社の設立は以下のステップに分かれます。ここでは会社の中で最も代表的な株式会社を例に進めます。
- 会社名、事業目的、出資者や取締役の人数・任期等、本店の場所等を決める
- 類似商号調査を行う
- 定款を作成して公証人から認証を受ける
- 預金口座へ資本金を振り込む
- 法務局で登記を行う
- 銀行に口座を開き税務署に届け出る
まず会社の名前を決めます。漢字、ひらがな、カタカナの他にローマ字・数字も可能です。尚、「株式会社」を会社名の前か後ろにつけることが必要になります。
次に、事業目的を決めます。会社が事業を行うには、定款に事業目的を記載しなければなりません。許認可が必要な事業(労働者派遣事業など)の場合、定款の事業目的にその事業を入れておき、登記しないと許認可が受けられないことがあるので注意が必要です。
続いて「人」(組織)について決めます。誰が出資して、誰が取締役になり、任期は何年にするかを決めます。なお、取締役の任期は最大10年になります。
最後に、本店をどこにするのかを決めます。会社を設立する場合、会社の本店(本社)をどこにするのかを決めなければなりません。自宅、店舗、事務所、どこを本店にしても自由ですが、本店は1ヶ所のみとなります。また事業年度も決めておきます。
(1)をすべて決めたら、類似商号調査を行いましょう。現行会社法では、同一住所、地番でなければ、隣にある会社と同じ名前をつけても罰せられませんが、同業者が自分と同じような社名は、お客様の混乱の元ですし、「不正競争防止法」で訴えられる危険性もありますので、自分が住んでいる市町村を管轄する法務局で、類似商号調査を行うことをお勧めします。
(3)定款を作成して公証人から認証を受ける会社の決まりごとを書いた、「定款」を作成し、公証人役場で、公証人に定款を認証してもらいます。この際、費用として印紙代と、公証人へ支払う手数料が必要になります。
(4)資本金の振り込み代表取締役になる人の預金口座へ、資本金を振り込みます。資本金は、現行の会社法ではかつての最低資本金制度が廃止されているため、いくらでもかまいません。しかしあまり少ないといわゆる信用力を損なう、という見方もあります。
(5)必要書類をそろえて法務局で登記を行う必要書類をそろえて、設立する会社を管轄する法務局で登記申請を行います。このとき、印紙代として15万円の費用がかかります。法務局へ行くと、登記完了日が提示されています。会社の設立日は登記書類を提出した日ですが、「登記簿謄本」は登記完了日以降でないと、取得することはできません。
(6)登記簿謄本を取得して銀行に口座を開く、税務署へ届け出る「登記簿謄本」を法務局で取得したら、銀行へ行き、会社の口座を開設して、そこへ(4)で振り込んだ資本金を移して下さい。これで会社がスタートします。あわせて、税務署へ届け出に行きます。
設立の登記がなされ会社として事実上存在していても、設立手続が法律に違反していれば、本来その会社の設立は無効となると考えるのが自然です。
しかし、このような会社でもいったん設立されれば社会の中で機能を始めてしまい、無効になると混乱を生じることもあり得ます。法的安定性の観点から、このことも考慮する必要があります。
そこで、会社法は「設立無効の訴え」の制度を定め、設立無効は訴えによってのみ主張することができるとすると共に、提訴権者、提訴期間などを制限することにしました(828条)。
いかなる設立手続違反が設立無効原因となるかについては、会社法上特に規定がありません。
法に違反するすべてを無効原因としてしまうと、社会に混乱が生じる恐れがあるため、以下のような重大な瑕疵が無効原因となると解釈されています。
- 定款の絶対的記載(録)事項が欠けていたり、その記載(録)が違法である場合
- 公証人の定款の認証を欠く場合
- 株式発行事項の決定(32条)につき発起人全員の同意がない場合
- 創立総会が適法に開催されなかった場合
参考コンテンツ:
連帯保証人について
虚偽の役員選任の登記申請をすると・・・
リスクマネジメント(=危機管理)
ここでは、企業のリスクマネジメント(=危機管理)について、概略を解説していきます。
リスクマネジメントとは何かリスクマネジメント(risk management)とは、リスクを組織的に管理(マネジメント)し、損失などの回避または低減をはかるプロセスを指します。リスクマネジメントは、主にリスクアセスメントとリスク対応とからなるといわれます。
リスクアセスメントは、リスク特定、リスク分析、リスク評価で構成されます。リスクマネジメントは、各種の危険による不測の損害を最小の費用で効果的に処理するための経営管理手法です。
リスクマネジメントとは、リスクを特定することから始まり、特定したリスクを分析して、発生頻度と影響度の観点から評価した後、発生頻度と影響度の両面から求められるリスクレベルに応じて対策を講じる一連のプロセスをいいます。
また、リスクが実際に発生した際に、リスクによる被害を最小限に抑える活動も含みます。
大まかなプロセスとしては、
リスク分析によりリスク因子を評価する
↓
リスク管理パフォーマンスを測定する
↓
リスクの発生頻度や、リスク顕在化による被害を最小化するための新たな対策を取って改善する。保険などのリスク共有によって、リスク顕在化に備えることも含む。
これらのプロセスは、いわゆるPDCAサイクルを回して行います。
リスク対応の種類には、リスクの回避、低減、共有、保有などがあります。
- リスクの回避:手順書を作成するなどしてマネジメントやプロセスによりリスクの発生を回避します。
- リスクの低減:本質安全と機能安全などがあります。
- リスク共有:リスクを他社と分割することで、リスクの転嫁、分散などがあります。リスク転嫁は、リスクが顕在化した場合の損失補償を準備することです。保険が掛けられる場合には、有効な対策の一つとなります。
- リスク保有:リスクを受容するともいい、対策を何もしないことを指します。発生頻度が低く、損害も小さいリスクに対して採用することがあります。何もしないというのも、重要な選択肢と捉えます。
それでは、企業がどういう状態になったときにリスクマネジメントが必要とされるのでしょうか。
(1) まず、社員管理の不徹底で顧客情報の漏洩が危惧される場合が挙げられます。
この場合には、リスクマネジメントの手法を通して、情報セキュリティポリシーの策定や組織への徹底が図られる必要があります。
(2)次に、大地震が想定される地域に、組織の重要な情報システム・意思決定機構が集中している場合があります。
この場合は、国の一組織でいえば首都機能分散などのリスク分散が必要になります。ディザスタリカバリ対処を検討し準備することも想定されます。
(3)事故が予想される現場における、安全措置の不徹底が見られる場合があります。
この場合は、現場安全マニュアルの策定・遵守などがあります。
(4)緊急事態において、迅速な情報伝達・意思決定を行う機構と訓練が不足している場合も、リスクマネジメントの手法で解決を図ることが必要です。
この場合は、緊急事態における迅速な対処および対処責任者の明確化、訓練の徹底が図られる必要があるでしょう。また、緊急事態対処訓練、卑近な例では避難訓練などもここに位置づけられます。
(5)製造業におけるリコール発生時の事前のマスコミ対策などにもリスクマネジメントが必要な場合があります。
常日頃から大量に広告を打ちマスコミが自主的に報道しないよう誘導するとか、改善後の品質向上を大きく取り扱ってもらうなどの施策が考えられます。
リスクに強い組織とは、コンプライアンスを徹底している組織、内部統制がしっかりした組織、リスクマネジメント体制がしっかりした組織のことを指します。
リスクマネジメントのイメージは、依然として組織に対する負の要因をいかに管理するかに焦点が当てられています(病気の原因を発見して治すイメージと似ています)。しかし、今後企業が取り組むべきは、負の要因を管理することは最低限のレベルとし、さらなる利益を追求する組織運営手法としてのリスクマネジメントへと高めていくことが必要だとする意見もあります(より健全な体作りを通して生産性を高める)。
企業のリスクは、1つの専門部署や数名の担当者だけで認識、管理できるものではありません。会計基準が世界基準に移行することによるリスクは経理、財務担当者が行い、労働者派遣法が改正されることによるリスクは人事・総務および運営現場が行い、消費者庁発足に伴うリスクは営業や企画、広報担当者がそれぞれの責任範囲および組織内他部署への影響まで、認識、報告する能力を持つことが求められます。
契約書
ここでは、主に会社で取り扱う契約書について概略を説明しましょう。
契約とは、そして契約書とはまず契約書を定義する前に、契約とは何でしょうか。契約は、 2人以上の当事者の意思表示が合致することによって成立し、さらに法的な拘束力を持つことを期待して行われる法律行為、といえます。契約書とは、そのような契約を締結する際に作成され契約の内容を表示する文書のこと、と考えればいいでしょう。
日本法上は、一部の例外(保証契約など)を除き、契約書を作成しなくても契約は成立します。ただ、合意内容の明確化や紛争の防止等の理由から、売買、賃貸借、金銭消費貸借、請負、雇用など多岐にわたって、契約書が作成されることが多いのです。
それが契約書の意義といえます。しかし、両者の合意が得られた時点で既に契約は成り立っており、契約書はその後に作られる付随的なものに過ぎませんから、「契約書が作成されたから契約が成立した」といった認識を持つのは誤りです。
また、民事訴訟においては、契約書が、問題とされる当該契約の成立や内容を立証するための最も重要な証拠方法であることは確かです。
契約書の構成と必須事項契約書はそもそも紛争を避けるため内容を明確にしておくことが必要です。したがって、事前にあとあとどのようなことについて紛争が生じやすいかを考え、そのような紛争に対して契約書の不備がないかをチェックしておくことが必要です。
まず、どんな契約書にも共通する重要事項を説明します。
契約は、契約した当事者間で効力を生じるものですから、契約の当事者が誰であるかを明確にしておくことが重要です。特に法人の場合、法人自体と法人の役員や社長個人とは法律上全く別のもの(法人格)ですので、会社と契約するのか、あるいは個人と契約するのか、契約書上、明確にする必要があります。
たとえば「○○株式会社 ■■(人名)」ではどちらの意味ともとれるので、このような記載は避けなければなりません。会社が当事者となる場合には「△△株式会社 代表取締役■■(人名)」と明確にしたほうがいいでしょう。
契約の有効期間を定めることは必須事項です。また、契約ではそのほかの期日も重要です。たとえば代金の支払期日、商品の納入期日などです。そこで、これらの期間・期日が明確に定められているのかチェックしなければなりません。
たとえば、「相当程度の期間」「検査のために通常必要と考えられる期間」といった表現の場合などは、それが10日間なのか1月なのか、人によって解釈が異なる可能性がありますから、明確に定めた方がベターです。
権利義務の内容も、明確に定めなければなりません。ビジネスでは無償で何かをすることはありえませんから、常に、何らかの行為(商品の提供)とそれに対する対価(代金の支払)という関係があるはずです。
たとえばコンサルティング契約であれば、どのようなコンサルティング業務をし、それに対していくらの対価を受け取るのか、というふうに、対応した形で書かれることが必要です。
契約書を見る際に、相手方にとって一方的に有利な規定がないか、逆に言えば、自分にとって著しく不利な規定がないかについて検討しなければなりません。
具体的には契約書のなかで自分が負うことになっている義務が必要以上に重くなっていないか、また広く解釈する(自分に不利な方向の解釈)ことが可能になっていないか、自分が相手に対して負ってもらいたい義務についての記載があるか、記載があったとしても不足がないのかを吟味する必要があります。
なお、民法、商法など関係する法律の規定に比べて重い義務を課せられていないかどうかも不利な条項であるか否かの判断基準となりますが、この点は法律の専門家でないと分からないことが多いので、まずは、自分の頭で、自分(自社)にとってビジネス的に不利かどうかを考えてみることが大切です。
(2) 契約の有効性契約を締結したとしても、契約自体が無効であれば意味がありません。契約の締結は自由というのが大原則ですが、例外的に締結された契約が無効とされることがあります。言い換えると、いくら自由に契約を締結できるからといっても限度があり、社会の秩序を乱したり、犯罪的な契約は効力が認められないのです。
極端な例ですが、殺人を依頼するような契約は公序良俗違反として無効となります。そこまでいかなくても、違約金として莫大な金額を要求するような条項は無効となる可能性が高いのです。
また、契約の内容と法律の内容が異なる場合であっても、契約を交わしてしまった以上、契約のほうが優先して適用されるのが原則ですが、法律上一定の規定について、例外的に法律が優先し、法律に反する契約が無効になるものがあります(「強行規定」といいます)。
有名な例としては、お金を貸すときに利息制限法の制限を越える利息を定めれば、少なくともその部分は無効となります。
ただ、そのような強行法規の問題は微妙なものも多く、法律の専門家でないと分からないことが多いので、弁護士に相談することをお薦めします。
会社でよく作成・利用される契約書には、以下のものがあります。
- 業務委託基本契約書:業務委託基本契約書とは、相手方と何度も取引が発生し長期的な関係になる場合に取り交わす契約書です。通常、この基本契約書の下に個別契約を取り交わします。
- 秘密保持契約書:秘密保持契約書とは、契約先の機密情報を扱う場合に締結する契約書です。
- 業務提携契約書:業務提携契約書とは、会社間でお互いに得意な分野で提携したり、業務の一部を他社に委託するときに締結する契約書です。
いったん交わした契約は、何も未来永劫に変わることなく続くものではありません。取引環境の変化に応じて、見直しをして変更することが可能であり、またそれがむしろ望ましい姿といえます。
具体的には、相手方を巡る環境とこちらの環境とに分けるとすれば、前者では、たとえば相手方に競合業者が現れたとき、それはこちらにとって優位の要因になりますから、これまでのこちらからの対価を下方修正することも検討に値します。
また相手方が供給するものが自然環境の変化などから品薄な方向に動いたときは、こちらに優先的に供給する条項を盛り込む提案をするなど、取引の安定のために改訂を検討する必要がある場合があります。
後者では、こちらの経営状態を考慮して、こちらが支払う代金の決済のサイクルや割賦払いへの転換などの改訂を提案する場面もあり得ます。
もちろん「改訂ありき」と考える必要もまたありませんが、漫然と以前の契約内容のまま延長を繰り返すことだけは避けねばなりません。
参考コンテンツ:
会社が倒産! 企業年金はどうなる?
突然退職した従業員に対する損害賠償請求は可能?
取引先が代金を支払わない場合はどのように対応すればよいでしょうか?
労働法務
労働法務は、企業の経営資源のヒト(労働力)・モノ(生産手段:設備や原材料など)・カネ(資本)の3要素のうち、ヒトを対象とする管理活動の法務を受け持つ業務といえます。
労働法務は、従業員(労働者)に関わるあらゆる法務を包含します。具体的には、採用、就業規則、賃金、労働時間、休日・休暇関係、解雇等 労災関係、配置転換・転籍・出向、退職、女性と労働・性差別の禁止、外国人労働者、福利厚生、労働組合などのカテゴリーに分かれます。
本稿では、労働法務の主要な業務=就業規則の作成、採用と退職・解雇、賃金その他労働条件そして労災をピックアップして解説します。
就業規則の記載事項の中にはいかなる場合にも必ず記載されなければならない事項があります。それは次の事項です。
- 始業および終業の時刻
- 休憩時間(長さ、与え方)
- 休日(日数、与え方)
- 休暇(年次有給休暇、産前・産後の休業、育児休暇、忌引休暇、結婚休暇など)
- 交替制労働における就業時転換に関する事項(交替期日、交替順序など)
- 臨時の賃金等(一時金、退職手当)を除く賃金について、決定・計算の方法(学歴、年齢、勤続年数、技能などの賃金決定の要素と賃金体系)、支払方法(直接支給、銀行振込み)、締切りおよび支払の時期(日給か、週給か月給か、何日締めの何日払いか)
- 昇給に関する事項(昇給の期間、率等)
- 退職に関する事項(任意退職、解雇、定年制、休職期間満了による自然退職等)
以上が必ず記載しなければならない事項ですが、その他に制度として採用する場合には記載しなければならない事項として、次のものがあります。
- 退職手当について、適用労働者の範囲、手当の決定・計算および支払の方法(勤続年数・退職事由などの金額決定要素、一時金方式か年金方式かなど)、支払の時期に関する事項
- 臨時の賃金等(退職手当を除く一時金、臨時の手当など)および最低賃金額に関する事項
- 労働者の食費、作業用品その他の負担に関する事項
- 安全および衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項(訓練の種類、期間、訓練中の処遇、訓練後の処遇など)
- 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項(法定の補償の細目、法定外の上積み補償の内容など)
- 表彰に関する事項(表彰の種類と事由)
- 制裁に関する事項(懲戒の事由、種類、手続)
- 当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項(旅費規定、福利厚生規定、休職、配転、出向など)
上記の事項の中には、雇用契約書に規定されているものもあるでしょうが、就業規則には重ねて記載しなければなりません。
採用と退職・解雇に関わる法務1.採用と法務
採用は、企業側がまず労働者の募集(労働者を雇い入れることを公表すること)をします。募集は、職種、就労場所、賃金、労働時間、社会保険加入の有無等を明示して行うことが通例です。そして、募集に対する応募者の中から選抜することになります。
採用時は労働契約を締結します。書面で雇用契約書を作成しなくても口頭で採用の意思を示し、労働者がこれに同意すれば契約は成立します。
一方、募集内容(労働条件)は、一般にある程度の幅を持って示されることが多く、特に賃金の額等はそれを個別の労働条件とみなすには不十分である場合が多いため、労働基準法では、雇入れの際に賃金その他一定の労働条件については、書面で明示すべきことを定めています(労働基準法15条)。
すなわち、一定の幅の中から当該労働者に関する個別の労働条件を決定し、それを明示する必要があります。その他の労働契約の内容についても、できる限り書面で確認することが求められています(労働契約法4条2項)。
労働者の募集および採用において、性別を理由とする差別的取扱いが禁止されています(雇用機会均等法5条)。また、直接差別のみならず、一定の間接差別も禁止されています。たとえば、身体的条件(身長、体重等)を課す場合や、転勤を条件とするような場合であって、その条件を課す客観的合理的理由がないものなどです(同法7条)。さらに、雇用対策法により、募集・採用における年齢制限が原則として禁止されました(同法10条)。
2.退職と法務
退職とは、労使間における雇用関係が終了することをいいます。一般的には労働者が自発的に、あるいは任意に労働契約を解約する場合(労使の合意退職、希望退職、退職勧奨に応じての退職なども含む)と、契約期間の満了あるいは定年などによりその職を退くことをいい、労働者の死亡による雇用関係の終了も含まれます。「解雇」とは区別して使われるのが一般的です。
民法628条は、雇用の期間を定めた場合であっても、「やむを得ない事由」があるときは雇用契約を解除することができるとしており、解除事由が限定されています。
有期労働契約は、使用者が更新をしなかった場合には契約期間の満了により雇用が終了します。これを「雇止め」といいます。有期労働契約の更新の場合は、労働契約法の改正により「雇止め法理」が法定され、次のいずれかに該当する場合に、使用者が雇止めをすることが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇止めが認められません。
(1)有期労働契約が反復更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合
(2)労働者が有期労働契約の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合
3.解雇と法務
解雇とは、使用者の一方的な意思表示によって労働契約を終了させることをいいます。これに対し、労使の協議による労働契約の解約や労働者の一方的な意思表示である退職などは解雇ではありません。
また労働契約で就労期間が定まっていた場合には、同期間の満了により契約が終了しますから、解雇ではないのです(ただし、短期間の契約が何回も反復継続し、更新が重ねられたときは、全体として「期間の定めがない労働契約」と認められることもあります)。
民法や労働基準法では、解雇に対して次のように定められています
- 労働契約に期間の定めがある場合:やむを得ない事由あるいは労働者の責に基づく事由がある場合に解雇できる。
- 労働契約に期間の定めがない場合
ア 30日前に予告するか30日分の予告手当を支払えば解雇できる。
イ 天災事変などのやむを得ない事由あるいは労働者の責に基づく事由がある場合には予告手当なしで解雇できる。
もっとも、上記の要件さえ満たせば解雇できるというわけではなく、以下に述べるとおり、さまざまな制約があるので注意が必要です。
労働基準法上の解雇に対する制約
労働基準法は、解雇に対する制約として次のとおり定めています。
- 労働者が業務上負傷しまたは疾病にかかり療養のために休業する期間およびその後の30日間
- 産前・産後の休業期間およびその後の30日間の期間は解雇できないとしているのです。これは、労働者は解雇されても就職活動が困難なことによります。例外は、(1)については打切補償を行うことであり、(1)、(2)共通のものとしては、天災事変その他やむを得ない事由のため、事業の継続が不可能となった場合です。
また、これとは別に労働基準法違反の是正という面からの制約として
- 労働者が行政官庁に対して労働基準法違反の事実を申告したことを理由としてする解雇等の不利益な取扱いをしてはならない
- 国籍、信条等を理由とする解雇の禁止(労働基準法3条)
- 不当労働行為となる解雇の禁止(労働組合法7条)
があります。
ほかにも、判例やその他の法律で解雇の無効の場合が示されています。もれのないチェックが必要です。
賃金など労働条件に関わる法務労働基準法において、賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称が何であるかを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう(11条)とされています。
しかしながら、労働者は使用者に雇用されることにより、賃金のほかにも福利厚生としての利益を得、あるいは企業設備等における恩恵を受けることもあるため、何が賃金で、何が福利厚生施設あるいは企業設備等になるかが問題となることがあります。
また同法24条は、賃金の支払について、「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「全額払いの原則」「毎月一回以上の原則」「一定期日払いの原則」の賃金支払五原則を定めています。
- 通貨払いの原則
使用者は労働者に対して原則として通貨で賃金を支払わなければなりません。この趣旨は現物給与の禁止です。たとえ労使協定で定めたとしても、賃金を通貨以外のもので支払うことはできません。 - 直接払いの原則
賃金は、中間搾取を排除するため、使用者は労働者に対して原則として直接賃金を支払わなければなりません。代理人や委任の受任者、また未成年者の保護者に対して支払うことは許されず、本人に直接支払わなくてはなりません(労働基準法59条)。また労働者が賃金債権を譲渡(民法466条)した場合でも、譲受人に支払うことは許されません。 - 全額払いの原則
使用者は労働者に対して原則として全額賃金を支払わなければなりません。 - 毎月一回以上の原則
- 一定期日払いの原則[編集]
使用者は労働者に対して原則として毎月一回以上・一定期日に賃金を支払わなければなりません(労働基準法24条2項)。(臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるものを除く。)これは年俸制であっても、適用されます。
賃金以外の労働条件には、労働時間、休憩、休日、休暇等のほか、福利厚生、安全衛生等多種多様なものが含まれます。
憲法27条2項の勤労条件に関する基準は、法律で定めるとする規定を受けて、労働基準法などにおいて、労働条件の最低基準が定められています。
具体的には、労働条件は本来労使が対等の立場で決定することを原則とし、労働契約は、就業の実態に応じ、均衡を考慮し、また仕事と生活の調和にも配慮して締結されるべきものとされています(労働基準法2条1項 、労働契約法3条)。
また使用者は、労働者を雇い入れる際その労働条件を明示することが義務付けられ、とくに賃金・労働時間など重要な労働条件については、書面を交付する必要があります(労働基準法15条)。
労働災害労働災害も、労働法務の重要な業務です。労働災害とは、「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」をいいます。(労働安全衛生法2条1号 )
労働災害は、使用者(事業主)の無過失責任として補償義務があります(労働基準法75~88条)が、労災保険法または厚生労働省令で指定する法令に基づいて労働基準法の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は、補償の責任を免れます(労働基準法84条)。(労災保険では労災を「業務災害」と呼びます。)
近時は、過労死や精神障害による自殺も、労働災害として労災保険給付の対象とされる裁判例が大幅に増加してきています。
商業登記
商業登記とは、商法などに規定された商人の一定の事項について商業登記簿に記載して公示するための登記をいいます。
企業運営で商業登記が必要になる場合商業登記は、株式会社等の商人に関する重要な事項を公示して、その信用の維持を図り、かつ取引の安全と円滑に資するための制度です(商業登記法1条)。
商人に関する情報を大量かつ十分に公開すれば、それだけ取引の安全に資することとなりますが、その一方公開される側の負担も大きくなり、公示制度の限界もあります。
したがって、重要事項として何を登記事項とするかは、この取引の安全と円滑に資する最低限の事項として、会社法911条3項をはじめとした法令により規定されています。
株式会社の登記すべき事項は、以下のとおり整理されます。
商号
商号譲渡人の債務に関する免責
本店の所在場所
会社の公告方法
貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項
中間貸借対照表等に係る情報の提供を受けるために必要な事項
会社成立の年月日
(目的区)
目的
株式・資本区
単元株式数
発行可能株式総数
発行済株式の総数並びにその種類および種類ごとの数
株券発行会社である旨
資本金の額
発行する株式の内容
発行可能種類株式総数および発行する各種類の株式の内容
株主名簿管理人の氏名又は名称および住所並びに営業所
創立費の償却の方法
事業費の償却の方法
その他株式又は資本金に関する事項
(役員区)
取締役、仮取締役および取締役職務代行者
監査等委員である取締役、監査等委員である仮取締役および監査等委員である取締役職務代行者
会計参与、仮会計参与および会計参与職務代行者並びに計算書類等の備置き場所
監査役、仮監査役および監査役職務代行者
代表取締役、仮代表取締役および代表取締役職務代行者
特別取締役
委員、仮委員および委員職務代行者
執行役、仮執行役および執行役職務代行者
代表執行役、仮代表執行役および代表執行役職務代行者
会計監査人および仮会計監査人
取締役が社外取締役である旨
監査役が社外監査役である旨
清算人、仮清算人および清算人職務代行者
代表清算人、仮代表清算人および代表清算人職務代行者
職務の執行停止
その他役員等に関する事項(役員責任区に記録すべきものを除く)
(役員責任区)
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人の会社に対する責任の免除に関する規定
取締役(業務執行取締役等であるものを除く)、会計参与、監査役又は会計監査人の会社に対する責任の制限に関する規定
(会社支配人区)
支配人
支配人を置いた営業所
(支店区)
支店の所在場所
(新株予約権区)
新株予約権に関する事項
(会社履歴区)
会社の継続
合併をした旨並びに吸収合併消滅会社の商号および本店
分割をした旨並びに吸収分割会社の商号および本店
分割をした旨並びに吸収分割承継会社又は新設分割設立会社の商号および本店
(企業担保権区)
企業担保権に関する事項
(会社状態区)
存続期間の定め
解散の事由の定め
取締役会設置会社である旨
会計参与設置会社である旨
監査役設置会社である旨
監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨
監査役会設置会社である旨
特別取締役による議決の定めがある旨
監査等委員会設置会社である旨
重要な業務執行の決定の取締役への委任についての定款の定めがある旨
指名委員会等設置会社である旨
会計監査人設置会社である旨
清算人会設置会社である旨
解散(登記記録区に記録すべき事項を除く)
設立の無効
株式移転の無効
特別清算に関する事項(役員区および登記記録区に記録すべきものを除く)
民事再生に関する事項(他の区に記録すべきものを除く)
会社更生に関する事項(他の区に記録すべきものを除く)
承認援助手続に関する事項(役員区に記録すべきものを除く)
破産に関する事項(社員区および登記記録区に記録すべきものを除く)
業務および財産の管理の委託に関する事項
(登記記録区)
登記記録を起こした事由および年月日
登記記録を閉鎖した事由および年月日
登記記録を復活した事由および年月日
法令により規定されていない事項は、登記することができません(商業登記法24条2号)。誤って規定されていない事項が登記されたとしても、当該事項には登記としての効力はありません。
逆に、会社法等により登記をすることとされている事由が発生したときは、必ず登記をしなければなりません(会社法915条等)。
商号の変更や取締役の選任等株主総会で一定の事項を決議した場合、その決議に基づいて登記を申請する必要が生じます。
登記の申請が必要となる株主総会決議は、登記事項の設定、変更又は廃止となる定款変更決議のときに登記が必要となります。
登記は,法令に別段の定めがある場合を除いて,当事者の申請又は官庁の嘱託がなければ,することができません(商業登記法14条)。
法令に規定されている方式以外の方式,たとえば,電話や登記所の窓口での口頭による登記申請は認められません(同法17条)。
株式会社は,日々取引をしているため,利害関係を有する者が多数存在します。安全で円滑な取引を維持するためには,登記すべき事由が発生した場合には,速やかに当該株式会社の商業登記簿に,その登記すべき事由を反映させなければいけません(会社法909条)。
会社法では,911条から936条にわたり、登記の種別に応じて一定の登記期間を規定していますので参照してください。
M&A、アライアンス
M&A( merger and acquisition(合併と買収))は、他の企業を取得しようとする際には買収者やその子会社などに吸収合併させるほか、買収先企業の株式を買収して子会社化する手段が用いられることから、およそ企業の取得という効果に着目して合併と買収を総称する言葉といえるます。
M&Aは、新規事業や市場への参入、企業グループの再編、事業統合、経営が不振な企業の救済、資金手当てなどを目的として計画・実行されます。また広義には、包括的な業務提携やOEM提携なども含まれます。
会社法の制定とM&AM&Aに関して本格的な立法が整備されたのは、平成18年に制定された会社法によります。これは、株式会社などの会社を規律する法律として、従来の商法その他の法令に代わり会社法が施行されたもので、同法の制定により買収対抗策として用いることができる手段に関して新たに規定が設けられるなど、M&A実務に影響を与えています。
また、金融商品取引法(旧証券取引法)が改正され、対象取引を拡大し、一部規制を強化する改正が同年に成立しました。
日本の大企業のM&Aの動機として多いのは、「国際競争力をつけるため」「国内市場競争力強化のため」「破綻企業再生のため」などといわれてています。
一方、中小企業のM&Aの譲渡側の動機として多いのは、「後継者問題」および「事業の将来性の不安」の2つと思われます。大企業と中小企業とでは、全く動機が異なるといっていいでしょう。日本では昭和30年代、40年代に創業した多くの中小企業の創業経営者が後継者難に直面しており、この問題の解決策として中小企業の友好的M&Aが静かな流行となっていると思われます。
非上場会社の経営者が事業の継承を考えた時、「親族または社員への継承」「株式上場(IPO)」「清算」「M&A」の4つが選択肢としてはありますが、実際は消去法の結果としてM&Aという選択肢が浮上してくるという説もあります。
M&Aの代表的な手法には、以下のものがあります。
統合、合併(吸収合併・新設合併)、株式交換・株式移転、買収、株式の取得、発行済株式の譲受け、新株の引受け、公開買付け、マネジメント・バイアウト(MBO)・エンプロイー・バイアウト(EBO)、LBO(レバレッジド・バイ・アウト)、事業譲受け、分割(吸収分割・新設分割)
友好的M&A取引M&Aには、友好的なものと敵対的なものとに分けて考えられます。一般的な、いわゆる「友好的M&A取引」は、以下の手順で進められます。
- 基本合意書
基本合意書(MOU)を用いて、交渉に先立って一定の合意を行うことがあります。秘密保持や独占的交渉権、誠実交渉義務などの約定がなされ、またその手前で秘密保持契約(NDA)が結ばれることも多いといわれます。 - デューディリジェンス
対象企業のプライシング、契約書による必要な手当て、リスクの事前把握などを目的として、デューディリジェンス(「DD」)という一種の監査を行います。細かくは、当事者や投資銀行によるビジネスDD(事業DD)、弁護士や司法書士による法務DD、公認会計士による財務DDなどに分かれます。 - 契約締結
合併契約書、株式売買契約書などの必要な契約書が作成され、締結されます。その内容は、当事者同士か、法務DDを担当した法律事務所、司法書士事務所が中心となって行い、デューディリジェンスの結果を反映することとなります。契約締結に先立って、必要に応じて、各当事者の社内手続(取締役会や株主総会などでの決裁)を経る、監督官庁(業規制当局や競争法当局)の許認可等を得なければならない場合があります。 - クロージング
契約によって定められた日に決済がなされ、M&Aが最終的に成立します。M&Aは登記が関わってくる場合が多く、登記が効力発生要件であることも多いため、司法書士による登記申請がM&A成立のシグナルとなることが多いです。
敵対的買収は、通常、買収対象会社の取締役会による同意が得られていない場合の手段といわれます。経営陣が買収提案に同意しない場合には買収防衛策の導入が図られたり、株主に対し会社経営陣として買収提案に応じないよう働きかけが行われたりすることから、買収の成否をめぐって買収提案者と会社経営陣などを中心に激しい闘争がなされることになります。
敵対的な買収は必ずしも「悪質」を意味するものではありませんが、対象となる企業の経営陣だけでなく、従業員・労働組合・取引先企業・下請けなどにとっても友好的とは言い難い敵対的な内容で、身勝手な買収がされるパターンもあり得ます。
また、買収側の企業や経営陣がドライな労働環境・労使関係や商慣行で広く知られていたり、あるいは短期的な自己の利益のため活動しており企業の長期展望など顧みない投資ファンドなどである場合には、買収の対象となった側の企業の内外において様々な情報や関係者間の不安が交錯し、自身の先行きに不安を感じた従業員の大量離職が短期間に発生したり、関係の行き詰まりを見越した取引先や下請けが取引を打ち切るなど、買収に様々なリスクが付いて回ることも少なくありません。
また、社内が混乱に乗じて競合企業から従業員にヘッドハンティングが仕掛けられる場合もあります。その結果として、買収が成立してもその企業から有資格者が流出し人数不足となってしまい、業務が停滞してしまうリスクを抱える場合もあります。目的と効果を熟慮することが求められます。これらのリスクを念頭に置きつつ検討することが求められます。
敵対的買収への対応では、敵対的買収を受けた側はどう対応すべきなのでしょうか。ひとつには、市場に対して大きな影響を与えずに進められる防衛策として、企業間の取引関係の強化を表向きの理由として第三者割当増資を行うといったやり方が考えられます。
これに対してもっとドラスティックな買収防衛策として多いのは、ポイズンピル型といって既存株主に対して無償で新株予約権を交付するものがあります。
ただこうした策は宣言的要素を伴うため、市場からの反応を招きやすく、株主のため、企業価値(狭義では配当および株価)の維持のために行うという本来の趣旨に沿ってないという意見もあります。
平成17年、買収防衛策に関して経済産業省・法務省による指針が発表されました。この指針には法的拘束力はないものの、経済産業省のみならず法務省によって行動規範として用いられることが期待されていいます。
この指針では、取締役が買収対抗策を導入することについて、「意思決定機関としての株主総会は機動的機関とは言い難いから、取締役会が株主共同の利益に資する買収防衛策を導入することを一律に否定することは妥当ではない」と指摘した上で買収対抗策の導入、行使、廃止に当たっては以下の原則を充足すべきものとしました。
- 企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、または向上させる目的をもってなされること(企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則)
- 事前に株主、投資家等に導入の目的、内容等を具体的に開示すること(事前開示の原則)
- 株主総会決議に基づき導入するか株主の相対的意思によって廃止できる手段を与えるなど株主の合理的な意思に依拠すること(株主意思の原則)
- 株主平等原則、財産権の保護、経営者の保身のための濫用防止などに配慮した必要かつ相当な方法によること(必要性・相当性確保の原則)
M&Aとは異なりますが、アライアンスという複数者間の業務上の協力関係を築く手法があります。
アライアンスには、技術開発・供与、生産、資材調達、物流、人材交流、販売促進など、さまざまな提携方法があります。アライアンスは、相互の企業が経営的には独立性を保ちながら協力し合うというところを特徴とし、合併や買収といったM&Aとは全く異なります。企業の経営的独立性が保つことができ、提携の解消が可能であるメリットがある反面、継続性の保証や金融面での支援などが期待できないところがデメリットです。
- 生産提携
生産、製造の一部を委託します。需要が好調な場合、自社での生産が追い付かないような状況で、委託側の企業に大きなメリットになり、受託側企業には生産量を増やせるために設備稼働率を向上させられます。他社へ委託する場合には、品質保持の観点から製造仕様書による詳細な指示や管理が必要になります。 - 販売提携
技術力や商品力はあるが販売・営業力やノウハウを持たない、あるいは弱い企業や、新開発商品、新規分野などで販売ルートを持たない企業などがすでに販売ルートや販売ノウハウを持っている企業に販売を委託する場合などに有効といわれます。 - 技術提携
企業が共同で技術開発を行う場合と、既存の技術を供与するケースがあります。技術の専門化、複合化が進むことで専門分野に特化した一企業だけでは新たな技術開発できない場合などに、複数のメーカーが相互協力することで新たな技術開発の可能性やスピードを高めることができます。また開発費用のリスク分散にも用いられます。 - 資本参加・資本提携を伴う場合
業務提携にとどまらず、資本参加や資本提携により、企業同士のより強固な関係を築く目的で行われます。またこの(4)だけはM&Aの一つの形態とも考えられ、将来的には、経営統合や合併を前提とする場合などもあり得ます。
知的財産
知的財産権は、無体物(情報)を客体として与えられる、有体物(動産と不動産)に対して認められる所有権とは異なる財産権の総称です。知的所有権とも呼ばれます。
知的財産は、知的財産権の対象となる「財」であり、「知的創作物(産業上の創作・文化的な創作・生物資源における創作)」と「営業上の標識(商標・商号等の識別情報・イメージ等を含む商品形態)」、そして「それ以外の営業上・技術上のノウハウなど、有用な情報」の3つに大別されます。
内外の法律・条約で定められ認められている知的財産権には、以下のようなものがあります。
- 産業財産権
特許権: 特許権者に発明を実施する権利を与え、発明を保護する。(特許法・パリ条約・TRIPS協定)
実用新案権: 物品の形状等に係る考案を保護する(実用新案法)。
意匠権: 工業デザインを保護する(意匠法・パリ条約・TRIPS協定)。
商標権・トレードマーク・サービスマーク: 商標に化体した業務上の信用力(ブランド)を保護する(商標法・パリ条約・TRIPS協定)。 - 著作権
著作権: 思想・感情の創作的表現を保護する(著作権法・ベルヌ条約・TRIPS協定)。支分権として、複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権、翻案権。 - その他の権利
回路配置利用権:半導体回路配置を保護する(半導体回路配置保護法・集積回路についての知的所有権に関する条約:IPIC条約)。
育成者権:種苗の品種を保護する(種苗法・UPOV条約)。
原産地表示・地理的表示(原産地等誤認惹起行為の禁止):ある商品の地理的原産地を特定する表示(不正競争防止法2条1項14号・TRIPS協定22条)。
インターネット上のドメイン名(不正にドメインを使用する行為の禁止):インターネットにおける識別情報(不正競争防止法2条1項13号・周知商標の保護規則に関する共同勧告「WIPO 勧告」)。
商号権:商人が名称を商号として利用する表示(商法14条・パリ条約)
肖像権(人格権):肖像が持ちうる、人格権にかかわる権利(憲法13条・民法710条)。
肖像権(財産権):肖像が持ちうる、財産権にかかわる権利。
周知表示(周知表示混同惹起行為の禁止):需要者の間に広く認識されている商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)。
著名標識(著名表示冒用行為の禁止):著名な商品等表示と同一若しくは類似の標識(不正競争防止法2条1項2号)。
商品形態(商品形態模倣行為の禁止):販売されてから3年以内の商品形態(不正競争防止法2条1項3号)。
タイプフェース:デザインされた一連の文字の書体(タイプフェイスの保護及びその国際寄託に関するウィーン協定、ただし未発効)。日本では独創性と美的特性を備え美術鑑賞となり得る書体のみが著作物として著作権で保護される。
営業秘密(営業秘密の保持・不正入手の禁止):秘密として管理されている有用な技術・営業上の情報(不正競争防止法2条1項4~9号・民法・刑法の不法行為)。
以上のような知的財産を「管理すること」、「侵害から守ること」、また「侵害から守ろうとする相手方と戦うこと」、それらの関連業務全体が、知財法務であるといえます。
主な業務内容を紹介しましょう。
知的財産権の調査
企業において、最初に知的財産関連の業務を行う必要性が生じるのは、どちらかというと、知的財産権を取得すると排他的独占権が生じることから権利化をするという積極的な理由よりは、他社の権利を侵害しないようにという消極的な理由から、他社の知的財産権の調査をすることが多いといわれます。著作権も調査業務はあります。
ビジネスの流れに沿って用語を列記すると、以下のようになります。
- 出願動向調査(技術動向調査)
- 権利化調査(出願前調査 or 先行技術調査)
- 権利侵害回避調査(クリアランス調査)
- 無効調査(無効資料調査)
特許出願担当業務(権利化に関する業務)
自社が開発した技術を「権利」にまで押し上げる業務で、以下の5段階から構成されます。
- ヒアリングを通しての発明の発掘
- 先行技術調査
- クレームの作成
- クレームを含む出願書類の作成
- 出願
知財関連契約業務
これは、知財に関する契約書の作成やレビュー(審査)をする仕事です。これだけではなく、アライアンスに関する契約、いわゆる提携契約も知財に関する契約です。
具体的には、技術力や知財力の獲得が提携の目的となっている研究開発委託契約、共同研究開発契約、生産技術提携などの技術提携契約や知財の取得も目的としている資本提携契約や、M&Aも知財に関する契約、ともいえます。
知的財産アナリスト
これは、知財戦略系の仕事です。これまでは知的財産部の部課長クラスや知的財産部の知財戦略チーム、事業部門、研究開発部門のチームが要面に出ることなく行ってきた仕事でもあります。ただ、現在では企業活動において経営戦略や事業戦略は非常に重要であるとされています。
知財の訴訟対応知的財産に関する訴訟には、特許権や著作権等の知的財産権が侵害された場合にその差止めや損害賠償を求める「侵害訴訟」と、特許等の有効性などを争う行政争訟とがあります。
侵害訴訟のうち、特許等に関する訴訟については、知的財産権専門部を有する東京地裁と大阪地裁の専属管轄とし、その他の著作権、商標、意匠、不正競争に関する訴訟については、東京地裁・大阪地裁と各地の地裁との競合管轄として、知的財産の専門的知見を有する裁判官が対応する体制になっています。
また、特許等の有効性などを争う法的手続(行政争訟)については、従来から、まず特許庁での審判手続によることとし、同手続での特許庁の審決に不服がある場合に、知的財産高等裁判所へ審決取消訴訟を提起するという制度がとられています。
事業再生・倒産
倒産とは、概ね、個人や法人などの経済主体が経済的に破綻して弁済期にある債務を一般的に弁済できなくなり、経済活動をそのまま続けることが不可能になること(またはそのおそれが生じること)をいう、と定義できるでしょう。
その意味で経営破綻と同義といえます。
これに対し事業再生とは、企業が倒産状態に陥った場合に、そのまま会社を清算するのではなく、債務の一部免除や弁済期の繰り延べなどを行いながら、収益力と競争力のある事業を再構築する試みとプロセスを指します。
ここでは、この事業再生を中心に解説します。
企業が倒産状態に至ったときに、そのまますべての資産を売却・破棄等により処分をすると事業価値が大きく毀損することになりますから、再建の見込みがある場合には、再建計画を立てて事業の再生を行うのが筋でしょう。
事業再生がうまくいけば、会社を支えてきた従業員の雇用を可能な限り維持することができ、また長年続けてきた事業の灯火を消すことなく存続することができるようになるのです。
一方債権者にとっても、そのまま会社を清算するよりも多くの金額を回収できるというメリットがあります。
まず事業再生をするための条件として、次の2点があります。
- 過去の負債が相当圧縮されるかすべてなくなれば、資金繰りが回るようになること
- 再生する事業が存在すること
過去の負債を圧縮し、あるいは負債がなくなったとしても資金が回らない会社は、仮に債務免除を受けたとしても再度資金繰りに詰まってしまうことになりますから、事業再生を行うにあたっては資金繰りが回るようになることが必須の条件です。
資金繰りが回るようにするための方策としては、
- 黒字化できるまで徹底したリストラを行って営業キャッシュフローを黒字化する。
- 資金力のある企業または個人にスポンサーとなってもらい、ニューマネーを補填してもらう。
などがあります。事業再生をするためには、これらの方策のいずれかまたは両方を行うことが必要なのです。
事業再生のスキームの選択:自主再生か否か事業を継続し再生するために必要な信用の回復や資金の確保をするためには、資金力・信用力のあるスポンサーなどから新たな信用の供与を受けて、信用を補完する必要があるか否かという観点から判断されることになります。
- 商品等の仕入資金が必要な場合
- 仕入先が外国など事業上金融機関の与信を必要とする場合
- 債務者企業単独では経営状況が黒字化へ改善する見込みがなく再生中に再度資金不足に陥る場合
以上のような場合には、スポンサーの支援は事業再生に際して不可欠です。企業が倒産状態になると、信用面が大きく損なわれ、資金の確保は容易ではありません。この信用力と資金力のめどが立たないと、従業員等を引きとめることは難しくなり、人材が流失する結果となり再生は困難となるでしょう。
スポンサー方式は、自主再建よりも債権回収のスピードが速くなり、債権者が早期かつ確実に債権が回収できるという点で債権者にもメリットのある方法ということができます。
なお、再生する事業を既存の再生会社で継続するか他社・受け皿の新会社へ譲渡するかについては、既存の再生会社の倒産が事業に与える影響が大きい場合や既存の再生会社が行政の許認可を要する業種の場合以外には、金融行政や債権者の税金の取扱いの観点から他社や受け皿の新会社へ譲渡されて再生されるのが一般的です。
2つの事業再生手法に-法的再生と私的再生事業再生の手法には、大きく分けて裁判所を通じて手続を行っていく法的再生と裁判外で手続を行っていく私的再生の2種類があります。
法的再生の手続の特徴としては、裁判所が手続に介在するため、手続の透明性や公平性が担保され、債権者に対して法的拘束力を及ぼすことができる一方で、予納金等の費用が発生したり、法的手続を行っていることが公になったりすることでイメージ的にも経済的にも損失のおそれが生じるというデメリットがあります。
一方私的再生の方では、手続が柔軟で迅速に進むほか、再建計画や弁済計画についても柔軟な計画を立案・合意することができる一方で、裁判所が関与しないため、一部債権者が抜け駆けをするなどして債権者同士の公平性の問題が生じたり、合意に達することのできなかった債権者と重大な問題が生じる可能性があったりするというマイナス面があります。
法的再生か私的再生かの選択は、一般に債権者の数が少ない場合や債権者との間で信頼関係がある場合など利害関係者間の調整が比較的容易な場合や、倒産していることが公知になると事業運営上致命的なマイナスとなる場合には私的再生が用いられることが多く、逆に債権者をはじめ利害関係者の数が多いなど利害関係の調整が容易には進まないような場合には、強硬な債権者などが法的手続を強行したりすると債権者間の公平が図られなくなるので、法的整理によらざるを得ないというのが一般的理解です。
法的再生法的に整理する手続には、民事再生手続や会社更生手続などを用いて再生する「再建型」と、破産手続や特別清算手続を用いて再生する「清算型」があります。 通常、法的再生というと、前者の手続を指します。
どちらを選択するか、ですが、まず「再建型」には
- 過去の負債が圧縮されればキャッシュフローが黒字になること(黒字化の見込みがあること)
- 再建させた場合の債権者への配当が今現在清算させた場合の清算配当を上回ること
の2つが条件となります。その理由は、過去の負債が圧縮されてもキャッシュフローが黒字あるいは黒字化の見込みがないとすると、再建させたとしても弁済を受けられる額の増加が見込めず、債権者が再建に協力する意味がないためです。
一方、「清算型」では、再生可能な事業や資産のみを譲渡して存続を図り、元の会社は破産あるいは特別清算により清算することになります。
具体的には
- 過去の負債が圧縮されてもそもそもキャッシュフローが黒字化できない場合
- 税金や社会保険等の滞納が多くて再建の見通しが立たない場合
- 再建させても債権者への配当が清算配当を下回ると予想される場合
になります。
もっとも、破産手続を利用すると法的再生のマイナス面が強く出てしまうため、再建型の手続である民事再生手続のなかで再生可能な事業を譲渡して存続を図るという手法が使われることもあります。
私的再生は、裁判所が関与することなく行われる私的整理(任意整理)手続を利用し、債権者と債務者で話し合いをして和解をすることで、事業を再生させる方法です。
私的再生は、法的再生のマイナス面である「倒産」という社会的認知を受けることによる事業価値の毀損を避ける目的で用いられる手法ですから、手続を選択する条件としては、再建型の法的再生と同様の条件のほかに、法的再生による再建よりも私的整理において債権放棄を実施し事業を継続させたほうが、より多くの回収を見込めることが大きな条件となります。
参考コンテンツ:
会社倒産になった場合契約報酬未払いはどうなる?
保証人になっている会社が倒産した場合、個人所有の車は…
ファイナンス(資金調達)
ファイナンス(資金調達)は、企業・組織などが外部から事業に必要な資金を調達することをいいます。企業が存続・発展する上で欠かせない条件になります。
ファイナンスの方法としては、自己資本による調達と、負債による調達の2つに大別できるます。自己資本による調達とは、株式会社の場合、株式の発行による調達であり、また負債による調達は、金融機関からの借入れ、コマーシャルペーパー(CP)や社債の発行による資金の調達までを指します。
会社にとって運転資金を調達することは、当然のことながら、会社運営上極めて重要な部分を占めています。資金調達の方法は、銀行からの直接的な借入れ、プロジェクトファイナンス、株式発行による間接的な資金調達など多岐にわたります。
方法を検討する際には、企業のおかれた状況・過程に応じた資金調達の仕組み(スキーム)を用いる必要があります。それこそが、その後の無理のない企業成長を促進するものとなるはずだからです。
自己資金のメリットは、以下のように理解されます。
- 経営権を保持できる
- 経営の自由度が高い
- 金利負担がない
またデメリットは
- 資金量が限られる
- 事業清算をした場合、自分の資産を失うことになる
ということになります。
また、「社員持株会」という方法があります。
社員持株会は、社員が設立する会社の資本金を出資しあう方法です。規約を作ることが必須であり、従業員持株会の組織・理事が必要となってきます。
そのメリットは
- 従業員のモチベーションアップ
またデメリットは
- 運営の手数がかかること
- 株主が分散すること
- 退職時の株の現金買取が必要なこと
といえるでしょう。
外部資金による方法外部資金による調達方法には、以下の4つがあります。
- 新株発行による資金調達
株主を募集して、その出資という形式で企業の長期資金を調達する新株式は自己資本の形成となります。株式は配当可能利益があれば株主に配当します。利益がないのに配当をした取締役は、会社に対して連帯して賠償責任を持ちます。 - 社債発行による資金調達
企業が一般人に対して社債を発行し長期資金を調達する方法です。社債は他人資本として形成し、株式と異なり配当可能利益の有無にかかわらず利息を支払います。 - 借入金による資金調達
社債も一種の借入金と考えられますが、ここでいう「借入金」とは銀行などの金融機関からの借金を指します。 - 手形・小切手による資金調達
手形は元々代金支払の手段としての機能を持ちますが、企業の資金調達の手段としての機能も持っています。その中には、1)金銭貸借の機能、2)金融調達の機能、3)債権担保の機能、に分かれます。多くのリスクを伴う手法とされます。
デューディリジェンス(DD)は、直訳すると「当然払うべき努力」を意味しますが、M&Aや資金調達を実施するにあたって、その対象会社について詳細に調査することを指します。資金調達の話が進むと、投資実行前にデューディリジェンス(DD)が行われるのが通常です。
どの程度DDをやるかは会社や担当者によって異なりますが、投資額の大きさに比例して、厳密に行われると考えていいでしょう。
会社にとって都合の悪い情報を出すことについては抵抗があるかもしれませんが、下手に嘘をつくとかえって窮地に追い込まれる可能性があります。
つまり、投資契約においては提出した情報に虚偽がないことを表明保証させられるのが通常です。投資が実行された後に、DDで虚偽の情報が提出されたことが判明した場合には、経営者個人に株式の買い取りを請求されるなどの責任追及がなされる可能性もあるのです。したがって、会社に不都合なことも隠さずに答えるのが賢明です。
ただ、致命的な問題が見つかってしまった場合には、投資が見送られることになりかねませんから、出来る限り早い段階から体制を整備しておく必要があります。
日本政策金融公庫の公庫融資起業資金のうち、自己資金や個人借入れで足りない分は、主に融資か出資を受けることになります。
ただ実際には、設立直後の会社が出資を受けられるケースはほとんどなく、また大手金融機関から融資を受けられる可能性も低いのが実情です。
しかし、公的機関の融資には、会社設立直後でも融資可能なのがあります。
日本政策金融公庫は国民生活事業と中小企業事業がありますが、創業希望者は国民生活事業の「新創業融資制度」に申し込むことができます(これとは別に「新規開業資金」制度もありますが、厳しい条件が課されます)。
融資額は上限1,000万円で、返済の金利は1.25%~3.00%、原則として設備資金ならば15年以内、運転資金ならば5年以内が返済期間の目安となります。借入上限金額は事業計画、自己資金などを勘案して決められます。
税務
通常会社に関係する税金としては、国税では、所得税(源泉所得税)、消費税、地価税、印紙税、登録免許税、関税が、また地方税では、不動産取得税、自動車取得税、自動車税、固定資産税、都市計画税、特別土地保有税、事業所税、ゴルフ場利用税、地方消費税などが挙げられます。ただし地価税と特別土地保有税については、当分の間課税停止とされています。
企業における税まず、会社の収益(法人税法上の所得)に対して直接かかってくる税金には、法人税と事業税があります。この2つの税負担が最も大きく、全体で収益の約40%になります。そのほか、法人の住民税は、法人税の額に対して課税される法人税割の部分と、会社の儲けに全く関係なく赤字であっても会社の規模に応じてかかる均等割や、預金利息を受け取ったときに天引き(源泉徴収)される利子割の部分があります。なお、平成16年の事業年度から資本金が1億円超の法人に対する事業税の外形標準課税が導入されました。
次に収益とは直接関係のない税金として、たとえば、不動産を取得した時に不動産取得税がかかり、契約書作成時に印紙税や登記に際して登録免許税もかかります。また取得後継続して固定資産税や都市計画税がかかるほか、場合によっては特別土地保有税や事業所税もかかることになります。
法人税額は、税務上の課税所得に税率を乗じて計算されます。この課税所得は、株主総会で承認された決算書の利益(会計上の利益)に、税務上の規定による加算や減算がなされて求められます。また、決算上は費用計上されるものでも、税務上は損金(税務上の費用を損金といいます)と認められないものや、決算上は収益計上されるものでも、税務上は益金(税務上の収益を益金といいます)にされないものなどがあるため、それらの調整計算の結果、会計上の利益(損失)と課税所得は一致しないのが普通です。
課税所得
法人税の申告は決算日から原則として2か月以内にしなければなりません(延長の例外あり)。この申告は確定決算上の利益(損失)に、税務上の調整項目を加算または減算して算出された課税所得によって行われます。確定決算という場合の確定とは、株主総会で承認されたという意味で、つまり会社法上の決算書の利益または損失が課税所得計算の出発点となります。
税務調整
税務上の調整項目は、その性格から次の4通りとなります。
- 決算上の収益でも所得計算上「益金不算入」とされるものの減算
- 決算上は収益計上していなくても、所得計算上「益金算入」とされるものの加算
- 決算上の費用でも所得計算上「損金不算入」とされるものの加算
- 決算上は費用計上していなくても、所得計算上「損金算入」とされるものの減算
この税務調整には、決算上織り込んで財務諸表を作っておかなければ認められない項目(これを決算調整項目といいます)と、申告書を作成するときに加算・減算する項目(これを申告調整項目といいます)とがあります。また決算調整項目のうちでも、株主総会における剰余金の処分によることができるものもあります。
代表的なを例は、
- 確定した決算で費用計上しなければ認められないもの(減価償却費、各種引当金等)
- 株主総会における剰余金の処分によることができるもの(特別償却、国庫補助金等によって取得した固定資産の圧縮記帳等)
- 申告調整によって行うことを要するもの(寄附金・交際費の損金不算入、青色申告による繰越欠損金の損金算入)
税額控除
法人税額は課税所得に税率を乗じて算出されますが、この算出税額から税額控除を行った残額が納めるべき法人税額となります。
主な税額控除は、
- 二重課税排除の目的から行われる所得税額等の控除
- 外国法人税額の控除
- 粉飾決算に基づく過大申告の更正に伴う法人税額の控除
になります。
税務調査税務調査は提出された申告書と添付書類の分析から始まり、実地調査(臨場調査)の要否がまず検討されます。実地調査は、中小規模の会社であれば、通常1~2人の調査官によって2~3日間かけて行われます。事前に電話で税務調査の予告がなされますが、不正嫌疑のある場合や現金売上業種である場合などは、予告無しに突然調査官が来訪します。
調査の対象年度は、通常直近の3年間になります。質問・検査する対象は広範囲にわたります。経理帳簿の基礎となるものすべてが対象となり、現金、預貯金、有価証券等の物件も対象となることがあります。
また、納税者からの回答だけでは調査目的が達成できないと判断されたときには、取引先や銀行に対して反面調査が行われます。
実地調査の最後に調査官から問題点の指摘や、税務当局の意見、見解が示されます。取り上げられた指摘事項について意見の交換をして、会社側がその内容に納得がいく時は、通常修正申告書を提出して調査は完了しし、納得がいかない場合には、税務当局は更正処分を行い、会社側は不服があれば争うことになります。
強制調査とは脱税事件を検察庁に告発することを目的として、裁判所の令状を取って強制力をもって行われるものです。国税犯則取締法に基づいて国税局の査察部(通称マルサ)が担当します。
任意調査任意調査とは強制調査に対応する呼称で、一般にいう税務調査はこちらを指します。これは、納税者から提出された申告書が法令の適用等に誤りがなく、正しく計算・作成されているかどうかを確認するために行われるものです。国税通則法や各税法に基づいて国税局の調査部や税務署などの調査官が担当します。
任意調査の展開は、以下の手順で行われます。
- 調査法人の粗選定
- 準備調査
- 実地調査(臨場調査):最も一般的に税務調査と言われているのが、この実地調査です。
- 調査の終結
実地調査の最後に調査官から問題点の指摘や、税務当局の意見、見解が示されます。取り上げられた指摘事項について意見交換をして、お互いの考え方を調整し、会社側がその内容に納得がいく時は、通常修正申告書を提出して調査は完了します。
納得がいかない場合には、税務当局は更正処分を行います。会社側はその更正理由を検討した上で、不服のある部分については税務当局と争うことになり、不服申立てから訴訟までの制度が設けられています。
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合併または分割時における併存する契約の取り扱いについて
契約書 2021年01月20日
このたび、当社を承継会社とし、子会社を消滅会社とする吸収合併を行います。 合併または分割等を行うにあたり、承継会社...